Novel 2

□情感
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進学校と言われるこの学校にもテニス部というものは存在していた。
そう多くない部員のテニス部で、まさか自分を知っている人間がいるとは思わなかった。
3年生だというその人は、正面から見ると氷帝の宍戸に良く似ている。
怪我をして、テニスはもう出来ませんと正直に話したつもりだったのに、
その人はマネージャーとしてでも構わないからと、大きな声で笑った。


「青学や氷帝みたいに強くは無いけどな」
宍戸のお兄さんという人は、そのつりあがった目で屈託無く笑う。
諦めが悪いというか、しつこいというか・・性格まで宍戸に似ている。
根負けして、マネージャー業務だけならと仕方なく頷いた。
もう自分用のテニスラケットも無いですと伝えて。
「部室に在る共用のラケットを貸してください」
「自分のラケットはないのか?」
「・・・はい」
大切なラケットは大切な人に託したまま、多分もう戻ってはこないだろう。
もう自分には必要ない、その覚悟で託したのだから。


2面しかないコートの、けれどとても良い土の感触につい笑顔になる。
グラウンドを走る、ストレッチをする、テニスボールに触れる。
あぁそうか・・身体を動かすことが自分はとても好きなのだ。
コートに入ることはないけれど、それでも気分が高揚してしまう。
テニスがとても好きなのだと、何度でも気が付いてしまう。



地区内の小さな大会が近いと聞いたのは、6月も終わる頃だった。
蒸し暑いコートでの長時間の試合。
選手の体調を考えるとたくさんの氷と塩分が必要だ、それから水分補給に気をつけること。
必要なことを書き出して、頭のなかで順序よく整理しておく。


「世話焼きっぷりは相変わらずだね、ついでに心配性なとこも」
見慣れたブルーのレギュラージャージ、感情の読めないアルカイックスマイルも健在だ。
「久しぶり・・か?」
全勝する青学を遠くから見つめていたけれど、とっくに気が付いてたんだろうな・・。
不二の指先がまだ新しいジャージの裾を強く引っ張る。
「そう久しぶり、本当に・・一体どれだけ忙しいか知らないけどね」
「あぁ・・」
「大石」

どう返事をして良いのか解らず、曖昧な返事で誤魔化す。
何となく皆が、英二が遠くなったような気がするとは言わない。
埋められない距離感に戸惑い、ぎこちなく笑う。
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