Novel 1

□絆繋
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氷帝の宍戸たちにマッチポイントまで追い詰められたというのに、不思議と焦りや切迫感などは一つも無かった。
体力も限界、腕も重く感覚も鈍くて、酸欠で頭もくらくらする。
何度拭っても流れる汗のせいで、視界も霞む。
身体のあちこちが悲鳴を上げているはずなのに、その苦痛が意識できない。
それだけの集中力が自分に残っているはずも無く。

『・・・大石』

あの瞬間、聞こえた声。英二が・・呼んだ?
聞こえた?違う、声ではない。頭の中にダイレクトに入ってきた『英二』が。

その後のことを、全く覚えていない。

トランスのような状態だった。
通常の意識から離れ、互いの中に溶け込むような感覚。
意識が、血液が、体液が、細胞が、全てが躰から溶け出して英二に流れていく。
呼吸も鼓動も何もかもが英二と繋がった瞬間は、まるで最高のエクスタシーを感じているようだった。


ただの一度だけ、の現象だったな・・。


眠っている英二を起こさぬようそっと身を起こし、ベッドのふちに腰掛け小さく息をつく。
再び損傷した右の手首はステンレスのギブスシーネでしっかりと固定されている。
ひやりと冷たいステンレスを左の指先で撫でる。
あの瞬間、無意識の英二が護ってくれた。
この先も二人、並んで行けるように。
二人で。 ・・・二人で、ずっと。

けれど。


月の光を借りて英二の寝顔を見つめる。
かすかに聞こえる寝息に泣きそうな笑みを浮かべると、そっと手を伸ばす。
柔らかなくせのある髪に指を絡め、長いまつげが落とす影をただ見つめる。 
また言えなかった。早く、告げなければ。

キシ・・小さくベッドがきしむ音をたてる。
眠っている英二の目蓋にキスを落とし、その場から離れようとして左手を掴まれた。
「何・・・?まだ足りないの?」
「んっ・・・」
再度ベッドに引き戻され、すでにもう感覚のない下肢を開かされる。
圧し掛かる躰の重みと、首筋を這う唇の濡れた感触に全身に甘い痺れが走る。
「何考えてる?」
何も、と答えようとしたが、声にならない。
「あ、んっ・・!」
何とか力の残っている太腿で英二の腰を抱いて、更に奥へ導こうと腰が動く。
激しく動き続ける英二の首に左腕をまわし、引き寄せる。
「え・・じっ!口、塞いでっ・・!声・・」
声を上げたくないとキスをせがむ。
「いいよ、大石・・」
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