Novel 1

□痛切
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どうしてしまったんだろう? ・・・右腕が無い。
肩の部分から捥げてしまったのか。
右の腕の感覚が何も無くなってしまった。
右腕・・無くしてしまった。

あぁもう・・ラケットは握れないんだな。
部誌を書くことも、ネットを張ることも、シューズの靴紐を結ぶことも・・
何もできなくなってしまった。

痛めたのは手首の腱じゃなかった?
右腕ごと無くしたんだっけ・・?

信じられない。
・・・でももう、何も思わなくて良いのか。

怪我をした後から、いつも付きまとっていた。
置いていかれたくない、という焦燥感。
勝ち続けるレギュラーたちへの羨望。それと疎外感。
実戦を踏み越え、勝ち続けることがどれだけ自信に繋がるのか、
選手である自分もよく解っている。
コートに立ちたい。いつまで、我慢すれば良い?
怪我を受け入れられない苛立ち、けれど『部長代理』としての立場が
何とか自分の冷静さを繋ぎとめていた気がする。


右の腕が無い自分にもう居場所は無い。
もう何も考えなくて良いのか。
少しはラクになるのかな・・。



「・・・し、大石!」
ぱしっ、と軽く頬を叩かれる。
「・・・・・?」
じんわりとした痛みに意識が引き戻され、ゆるゆると目を開く。
両手で頬を包んでいる温かい手と、間近に迫る大きな双眸が自分の顔を
覗き込んでいる。
「・・・え・・・じ」
「変な夢でも見てた?・・・大石?」



確かに眠っているだろうに、眉間に皺を寄せて、何かを必死で耐えているかのように歯を食い縛って。
その大石らしくない険しい寝顔に驚いた。
うなされているのに幾ら躰を揺すっても全然起きない大石に焦れて、
頬を叩くという強行手段に出てしまった。
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