Novel 1

□妙策
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『おチビとダブルスって楽しかった?』
そういう練習メニューだと説明しても、苦手なことは克服しないと、と話をしても
返ってくるのは不機嫌な顔と平手打ちという理不尽な仕打ち。



壁際に追い詰められ、掴まれた肩を壁に押し付けられる。
「英二・・。肩が痛いんだけど」
これ以上怒らせないように出来るだけ冷静に目の前の英二に声を掛ける。

無駄だと解っていても。

ふぅん・・と聞いていないような返事をしたかと思うと、
いきなり制服のシャツを捲りあげズボンのベルトに手をかける。
「な・・!」
何をされるのか理解した瞬間、咄嗟にその手を払いのけ、
右膝で英二のわき腹を蹴り上げようとした。
「残念でした」
逆に右膝を抱えられ、足を大きく開くように英二が躰を割り込ませてくる。

口元はゆるりと笑ってる、けれど目の色が暗く、感情のない色をしている。

怒ってるな、というのはさっきから解っている、けれど怯むわけにはいかない。

・・ここは。

「部室だぞ」
鍵も掛けていない、それに校内に残っている誰かが、
いつ来てもおかしくない時間だ。
至近距離に迫った英二の唇から顔を背けると、
両腕に力を込めてその躰を押し退けようともがく。

「っ・・」

制服のズボンの上から、英二の手のひらが包むように大石自身を抑えつけた。
そのまま撫でるように動かされる指先にぶるりと腰が震える。

「・・ふざけてないで・・手を、退けろ・・」
必死でもがき、押さえ込む英二の腕に力を込める。

ふっ・・と密着していた躰が離れた。
唐突に自由になった躰は、逆にバランスを失い前のめりに倒れこむ。

「うわ・・っ!」
「ナイスキャッチ☆・・・大石ぃ俺を押し倒して嬉しい?」

英二の躰の上に上手く倒れこんだ大石の体制は、どう見ても
英二を押し倒しているようにしか映らない。

不機嫌なくせにそのふざけた様な言い方。
・・背筋に冷たい汗が流れる。
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