Novel 1

□微熱
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「熱がある」
「少しだろ・・ただの風邪だ」
いとも自然な仕草で大石の額に触れ、そしてもう一度自分の額に手を当てる。
「・・確定だね。今日は部活中止。帰るよ、大石」
ラケットバッグとかばんを掴み顧問に帰宅する旨を伝えて学校を後にする。
『一人で帰れる』とごねる大石を無視して、
二人分のかばんを手にさっさと歩き出す。





パジャマに着替えた大石に感冒剤と水分補給のために多めに水の入ったコップを渡すと、
苦々しい顔で受け取り、さっさと飲み干すとベッドにもぐりこむ。
嫌がる大石に体温計を渡し、測定するよう促すこと3分。
38度7分。立派に発熱している。

だから熱測るの嫌だったんだ・・。確定した数字が熱発を自覚させられるし。

少しむくれて寝返りをうって、こっちに背中を向ける。
なんだか子供のような拗ね方をする大石が可笑しくて、
苦笑いをかみ殺しながら丸まった背中に声を掛ける。

「他に何かしてほしいことない?」
「ないよ。風邪がうつるから帰る前にうがいしたほうがいいぞ」
「はいはい」
ありがとう・・と呟き、それっきり黙ってしまった大石の頭をそっと撫でると、
いったん部屋をでる。



取り合えず氷枕だけは用意してまた部屋に戻ると、薬が効いてきたのか
大石はうとうとし始めていた。
ベッドに腰掛けてそっと頬に触れると冷たい感触に僅かに身動ぎする。

「・・・え・・じ?」
帰ったんじゃなかったのか・・と言いたげな大石だが、
頬に触れる手の冷たさが心地良いのか息を吐き出す。

覗き込むように至近距離まで顔を近付けると額を重ねる。

さっきより熱が上がったような感じだが、大石には伝えない。
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