Novel 1

□呪文
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『何でもないよ。大丈夫、何でもない』


大石の口癖はまるで呪文のようだ。

何でもないよ・・。

自分にそう言い聞かせ、まるで本当に何でもなかったように
自己暗示をかけるための呪文。

何があっても何もなかったように振舞い、
自己完結するのは大石の悪いクセ。



けれど些細なことが積み重なり、その許容範囲を超えると
壊れたように俺を欲しがる。


これ、という決定的な理由はないのだという。

どうしたの、と聞いても答えはいつも同じだ。

大石自身にも『何か』解らない、
ただ『何でもない』という呪文が効かない。





いつも、雨の夜だ。
叩きつけるような大粒の雨の音はどうしてか大石を安心させるらしく、
先程から思うまま乱れて甘みを含んだ吐息を漏らす。


きしりとベッドが小さく軋む。
開いた立て膝の間に顔を埋めると、
両手で大石の太腿の内側から押さえて大石のモノを口に含む。
「んっ・・」
閉じようとする膝を押し戻して、指を奥に押し込みこじ開けていく。

「あ、あぁ・・!」

どちらの刺激にも反応して大きく躰を震わせ、
けれどその手は俺の頭を撫でている。

唾液や体液のせいでぬるぬるしながら締め付けてくる
その場所から指を引き抜き、口を離すと、まるで足りないと抗議するように
大石が顔を上げた。


腰に手を回すと大石の上肢を抱き起こして、向かい合い顔を寄せる。


紅潮した頬と濡れた息、口の端から流れた唾液を拭うようにキスをする。


「上に乗る?・・それともバックがいい?」


大石が欲しがるままに、望むままに、犯してあげるよ?
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