Novel 2

□月影 
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眠っていたはずなのに・・差し込む光の眩しさに、たまらず目を開ける。

カーテンの隙間から漏れる、青白い光。
それは空にぽっかりと浮いた、真ん円の月の光。
その神々しいくらいの光のせいで、夜更けだというのに空は青く見える。

星の輝きすら消してしまう、満月の明るさ。


そろりと身体を起こして、絡まっている腕から逃れる。

月の青白い光にぼうっと浮かぶ、日に焼けた・・けれどとてもなめらかな肌。
「・・・英二」
そっとそうっと・・小さな声で呟く。
まつげも長くて、はねた髪の毛も頬の線もうんと柔らかで、
寝息を付く唇もとても整っていて。

ベッドから下りると、崩れるように床に座り込む。
全身の気だるさに足に力も入らず、立ち上がることも出来ない。

ぼんやりと部屋の中を眺める。
本棚、水槽、床に散らばった2人分の衣服。
こんな明るい夜もあるのか。
漏れる月の光のせいで、ライトの消えた水槽内のテトラたちの様子も
良く見える。

静かに冷たい床に転がると、手のひらで目を覆う。

最近、どうかしてる。

パジャマの袖を掴むとその下にある掠り傷をなぞる。

無意識に切ってしまう、その衝動が自分でも全く抑えられない。
手首を、腕を何箇所も切って、薄く血を滲ませて何になるというのか。


英二の関心が欲しい? そんな馬鹿げた、まるで子供じみた独占欲なんて。

そんなのは、嘘だ。



『菊丸をダブルスの要として据える』
それは事実上、黄金ペアの解散、自分への戦力外通告。
今更驚くようなことでもない。故障者は外される、それだけだ。

『公式戦でシングルスも対応できるように練習メニューを変更する』
どんなことをしても、青学は勝たなくてはならない。
手塚は常に正しい、絶対に反論も異議も許さない。


・・・それでいいんだ。


『菊丸のことでオレを煩わせるな』
うん・・解ってるよ、手塚。

床のひんやりとした冷たさが気持ち良くて、そのまま目を閉じる。

「何やってんのさ」
ぐっすりと眠ってると思っていたのに、不機嫌な声と同時に腕をつかまれた。

無理に引っ張られると、ベッドの上に乱暴に投げられる。
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