Novel 2

□月色
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しとしとと細い雨の音が聞こえる。
背中が痛い、ここ・・どこだっけ?
うっすらと目を開けるとぼやけていた視界がカタチに成っていく。
・・・・部室だ。
痛む背中を無理矢理起こして、何とか壁にもたれると改めて自分の身体を見回す。
制服もきちんと整えられているし、身体の後始末もしてある。

『被害者ヅラするなよ・・大石は自分で選んだんだぞ』

その通りだ。
英二の上に跨ったのは、その首に腕を絡ませ腰を振ったのは自分だ。
たまらず声を漏らして、もっと・・と息を荒げて
汗でしめった身体を仰け反らせたのも。

『オレって・・大石のナニ?』
『これだよって言ったら・・英二は納得するのか?』
ただの友人?同じ部の仲間?それとも、身体を繋ぐだけの相手?
『サクリファイス』生け贄としての・・オレの役目は。

英二にとって、オレは何なんだろう・・?
くすりと小さく笑ってしまう。
自分が何か伝えられないくせに、答えだけを相手に求めるなんて。


全くの無表情でこちらを見ていた手塚。
たいしたコトじゃない、別に気を揉むようなことではないのだ。
どんな些細なことでも、手塚を煩わせたくない。


ラケットバッグを取ろうとして、その横に置いてある傘に目が止まる。
1本だけしかなかったはずのに。 ・・・置いてあるなんて。


「何のために」
一体自分は何のためにココにいるのか、何をしたいのか。
手塚のように怪我と向き合う強さも、納得して受け入れることも出来無くて。
この場所にしがみついて、もがいているだけで。


コートに立つ手塚と向かいあったあの瞬間、自分は『菊丸英二』の存在を裏切った。
全国では戦えないと無言で宣言した。
bPダブルスになるという期待を、同じコートで戦えるという信頼を。
そして怪我が再発していた事を黙秘していたという、最高の裏切り行為だ。
「最低だな・・」


許しを乞うために、身体を差し出してるのか?


胃のあたりがむかむかする、気持ちが悪い・・・。
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