Novel 2

□相対
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『私の雇い主はあなたではありません』


何の感情も無い低い声、すらりとした細身に地味な服装。
顔なんかほとんど見てないし、だいたい興味も無い。

何が新しいSPだ、そんなヤツさっさとお払い箱にしてやるからな!

『私の雇い主は国光会長です』

あの頑固親父・・何考えてやがる。今まで何人のSPを首にしたか
絶対忘れてるな。
自分の身くらい自分で護れるつーの。専属のSP?ふざけたことを。

『手塚国光』は国益を第一に考える一般的に言えば政治経済界の長、裏では
ヤクザまがいなことをしでかすオレの父親だ。

父親だけが同じ兄弟ってのは結構いるらしい、だがどうしてか末っ子の
オレに跡を継げと言い出した。

未だ高校在学中、しかも非嫡出子であるオレに、だ。


「・・オマエ、何?」
その男は『大石』というIDカードをオレの目の前に突きつけた。

新しい専属のSPだという、そしてオレが拒むと『私の雇い主はあなたではありません』
そう言いやがった。


「それってコードネーム?それとも本名?」
「答える必要はありません」
無愛想極まりない、おまけに何だよその態度は。
思いっきり無視して、部屋を出て行く。


警視庁に所属する専従の官、要人警護官・・とでもいうのか。
オレ自身が要人であるとは、とても思えないのだが。

取り巻く環境が非日常的である以上、仕方がない。


まさかソイツが学校にまで現れるなんて、思わなかった。

「年齢詐称・・」
同じ制服をまとい、髪型を変えているけれど。

現役高校生がそんな物騒な目をしてるかっ!

「いいえ、同じ歳です」
「・・は?」
同じ歳?大石と名乗ったそのSPの顔を、初めて正面から見る。
「同じ歳なんです、英二さん」
だから国光会長が、私を専属として派遣したんです。

細面で繊細な線に縁取られた顎、少し翳りの見える切れ長の目、
初対面のときの鋭さを隠して、表情を緩めてこちらを見ている。

「馴れ合うのは好きじゃないんだ、校内では一切話しかけるなよ」
解かりました、少しだけ口元をほころばせにこりと笑った。
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