Novel 2

□約信
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『オレがいないほうが、秀一郎はもっと自由だったんじゃないの?』

何年か前の出来事だったと思う。
思春期真っ只中で、しかも反抗期だった頃、些細なことで秀一郎と衝突して。
思わず口走ったオレの言葉に、秀一郎の動きがぴたりと止まった。
『・・・・そんなわけ、ないじゃないか』
目を見開いていた秀一郎が、擦れた声で、今にも泣きそうに顔を歪めた。
『もう、いいっ!』
泣きそうな顔すんなっ!痛烈な言葉を放ってから、あまりの酷さに自分でも
呆然としてしまう。
俯いていた秀一郎が、静かに、そして黙って部屋を出て行った。

ごめんなさい・・・一言、そう言えば良かったのに。
どうしてその言葉が出てこなかったんだろう。




「ただいま・・英二、英二?どこだ?」
「キッチンに決まってるだろ、今手が離せないんだから呼ぶなよ」
飼い猫を探すみたいに呼ぶな、そう言って手は野菜たっぷりの餃子を包みながら、
首だけをぐるりと回すとおかえりと言おうとして・・。

「・・・げ」
にこにこ笑う秀一郎の横に立つ、小柄な(小さいと言うと怒る)男子。
目つきの悪さもラケットバッグを担ぐそのふてぶてしさも相変わらずで・・。

「・・ッス」
「おチビ」
ふん、悪意を込めて名前はわざと呼ばない。
だいたいコイツもオレのことアンタ呼ばわりするし。


『越前リョーマ』。オレと同じ歳で現役のプロテニスの選手。
世間で知らないやつはいないだろう有名人で、手塚(先生)の教え子だったらしい。
手塚(先生)と秀一郎は中学の同級生で、それから唯一の親友で。
その繋がりで、どうしてかたまにウチにやってくる。
あぁ、秀一郎がおチビのメンタル専門の主治医のせいもあるかな。

「晩御飯、ひとり増えてもいいかな?」
タカさんから散らし寿司も頂いたんだよ、ほらと3人分の散らし寿司を
手を掲げて見せてくれる。
プレートに並べた餃子を焼きつつ、水で戻しておいたワカメと卵のスープを作ろうと
取り掛かろうとして。
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