Novel 2

□索取
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『軽い脳震盪だろうけど、ちゃんと病院に行っといで』
顧問の命令に渋々と頷いて、疲れた身体を引きずって病院に向かう。
『お前さん達、アタシの想像を遥かに超えおった。・・まだ進化するぞ』
褒められてるのか、励まされてるのか・・・何だかくすぐったい言葉に笑って。


関東大会のファイナル、青学は念願の優勝旗を勝ち取った。
大石にとっては、悲願の、かな。
顧問のケイタイを借りて、ぼろぼろと泣きながら手塚に電話をしてた。
汗と涙でぐちゃぐちゃなその顔を、不二が笑いながらタオルで拭ってたっけ。
・・っとに、気質は優しいのに試合になると一変するなぁ。
立海の副部長と握手しながら、毅然と、きっぱりと、高らかに勝利宣言して。

まぁ、とにかく負傷してた手首が治って良かった、もう大丈夫。





しとしとと雨の降る音がする、雨の粒が木の葉を叩く音。
ひどく、つらい夢を見たような気がした。
ゆっくりと目を開いて、暗闇のなかで小さく息を付く。
となりには身動ぎもしないで、静かな寝息を付く大石がいる。
気持ち良さそうに、良く眠ってる。

『靭帯の損傷は無茶をすると日常生活にも支障が出るぞ、絶対に大事にしろ、
利き腕だろう?』

身内の病院に辛抱強く治療に通っていたことも、オレは後から聞かされた。
途中で投げ出したりもせずに、根気よく治療に取り組んでいたことも。

きちんと治ると信じて、どんなに疲弊していても誰にも何も漏らさずに。
焦れることもなく、無茶もせずに、常に自分の力量と向き合って。



・・大石は、思慮深いから・・英二、解かってあげないと。

不二たちの宥める声に、どうしても頷くことが出来なかった。

解ってるよ、解ってる・・けど。
どうして大石は、オレに何も言ってくれないんだよ?
オレはそんなに頼りないんだ、大石の役には立たないんだ。

・・一番辛いのは、大石本人だよ?

解ってる・・怪我が治ったって安堵した顔が今でも脳裏に焼きついてる。
とても嬉しそうに、柔らかく笑ったんだ。
あれは確か・・関東大会ファイナル、立海戦の直前だった。
それまでは強張った顔で、作った笑顔ばかりだったのに。

もう、大丈夫だ・・そう言って、柔らかく笑った。
胸に温かなものが流れ込んで、たまらず大石を抱きしめたんだ・・。
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