幻想入り〜贋作する程度の能力〜

□第一章〜贋作された世界〜
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…闇があれば
必ず光がある。

誰かがそんな事を
言っていた気がする。

おかしな話だ。
光があれば必ず闇がある
ならまだ分かる。
光を当てれば必ず
影が出来るからだ。

だが、その誰かが
言っていた言葉は逆だ。
だからおかしい。

何故なら闇だけなら
光は出ないからだ。
誰かが照らさない限り
光は出ずに
闇は闇のままだ。

でも何故だろう。

その言葉が頭から
離れないのは−









…大雨の日、
一人の少女が
道を歩いていた。

年は14才くらい、
フリルの付いた赤いリボンで
髪を結い
肩と脇が露出した
デザインの巫女装束を
着ている。

彼女の名前は博麗霊夢。
この楽園…
幻想郷の博麗大結界を
維持している巫女だ。
それ以外は妖怪退治等を
しているらしい。

今も妖怪を退治し終わり
神社に帰る途中である。

「−−−−。」

「…ん?」
ふと雨音に混じり
誰かの声が聞こえた
気がした。

取り敢えず振り返る。

だが、そこには
相変わらず雨が降り続く
暗い地面があるだけ…

…の筈だった。


「………………………
…思わず絶句した。

たった今通った時には
何も無かった筈の地面に
白髪の人間が
倒れ伏していた。

「…ちょっ…
貴方大丈夫
傘も放り駆け寄る。

人間はピクリとも
動かない。

抱き上げて
呼吸を確認する。

…微かだがちゃんと
呼吸はしている。

「…まだ助かる…
急いで神社へ運ぼう。

こんな所では
ろくな治療も行えない。

そう思い、
肩を貸して神社へ
運んだ。







「…で、彼の様子は?」
急かす様に寝かせてある
人間の隣に座った
人物に話し掛ける霊夢。

「…そうね、今は
落ち着いているわ。
特に命に別状は
ないわよ。」
ゆっくりと霊夢を
振り返る女性、
八意永琳は優しく
微笑む。

「…良かったぁ…」
安堵し壁に寄り掛る。

「……………………」
そんな霊夢の様子に
苦笑しながら
荷物を片付ける。

正直、永琳は
驚いていた。

本当のところ、
実は人間はもう
手遅れな程の大怪我を
負っていた。

しかし、診ている間に
"命に別状はなく"
なっていた。

…驚異的な再生能力。
しかも、軽めにみても
吸血鬼や妖怪と同等、
下手したらそれ以上の。

「…では、霊夢。
私はこれで帰るわ。」

「…あ、うん。
ありがとうね。」
安堵し弛緩したままの
霊夢に後を任せ、
部屋を出ていく。

…こっそり採った
彼の血液。
もしかしたら
何か分かるかも
しれない。

そう考えて
神社を後にする。








「………ん…………?」
…なんだろう、
先程まで暗くて
寒かったのに
今は明るくて暖かい。

目を開けてみると、
見慣れない天井が
見える。

まだ体が痛むが
起き上がり見渡すと、
畳と布団が目に入る。
どうやらここは
誰かの家らしい。

「…あ、目が覚めた?」
声がしたので振り返る。

…と、そこには
紅白の巫女装束を着た
少女が立っていた。

「…………貴方は………」
まだ頭がちゃんと
働いていないらしい。
言葉が浮かばない。

「私は博麗霊夢、
この神社の巫女よ。」
そう言いながら
隣に座る。

手には御盆を持ち、
その上にはお粥と
お茶が乗っていた。

「…大丈夫?
貴方、雨の中
倒れてたのよ?」
心配そうに顔を
覗き込んでくる。

「…大丈夫…です…」
顔が近いので
少し赤面しながら
答える。

「…ほら、これ。
お粥作ったけど
食べれる?」
そんな様子に
苦笑しながら
お粥を差し出す。

「…ぁ…はい…」
少しぼーっとしながらも
レンゲに手を伸ばす…
…が、まだ身体が
上手く動かず
レンゲを取り
落としてしまう。

「あぁ、ほら。
無理しないの。
…はい、あ〜ん。」
再び苦笑しながら
レンゲを拾い上げ
お粥を乗せて
口まで運んでくれる。

「…すみません…」
なんとか頭を動かし
お粥を食べる。

暖かいお粥が
喉を通る。

それだけなのに、
何故か救われた
気がした。





「…ところで、
何であんな所で
倒れてたの?」
お粥も食べ終わり、
再び横になっていると
霊夢が突然聞いてきた。

「…えっと…その…
…覚えてなくて…
…気が付いたら
ここにいて…」
突然だったので
少し狼狽えながらも
答える。

「…そう。」
そんな人間の様子に
微笑みながら
頭を撫でてくる。

「……………………///」
…気持ち良いが
少し恥ずかしい。

「…まぁ、取り敢えず
今日はゆっくり
休みなさい。
私は隣の部屋に
いるから。」
そんな様子に
苦笑しながら
食べ終わった
器を片付けて部屋を
出ていく霊夢。

「…………………………」
静かになった部屋に
一人取り残される。

その静けさが
徐々に眠気を誘う。








…あれから
十数日が経った。

結局、住む場所も
見つからないので
そのまま神社に
居着いている。

今何をしているか
というと、境内を箒で
掃いている。

何故かというと
今お金なんて
あるわけなく、
家賃の代わりに
神社の掃除等
雑用やお手伝いを
しているからだ。

「お〜、白夜〜。」

「あ、魔利沙さん。
こんにちは〜」
箒に乗り飛んできた
白黒の魔法使い…
…霧雨魔利沙と
挨拶を交わす。

ここ、幻想郷では
最速のブン屋の所為で
珍しい事件や噂は
かなり早く広まる為、
居着いた次の日から
結構な数の人々が
私に会いにきた。

その為、まだ
十数日しか経って
いないのに
多くの幻想郷の人々と
知り合いになった。
(主に妖怪だが)

因みに、「白夜」とは
霊夢や魔利沙達に
名前が無い事を告げたら
呼びにくいからと
(何故かいたスキマ妖怪に)
付けてもらった名前だ。

理由は私の銀髪が
北極圏で起きる
白夜という現象の空と
似ているからだそうだ。
(見た事は無いが
前に本で読んだらしい)

「なぁなぁ、暇なら
私とデートでもしないか?」
にやにや笑いながら
話し掛けてくる。

「すみません、
ちょっと今は
掃除中ですので…
…終わったらで
宜しければ
お付き合いしますよ?」
苦笑しながら
手は休めずに
言葉を返す。

「そうか、じゃあ
待たせてもらうぜ。」
そう言いながら
縁側に座っていた
霊夢の隣に座る。

「…はい、では
すぐ終らせますね。」
にっこりと笑い
掃除に戻る。

「「………………………」」
そんな様子を見ながら
お茶を飲む霊夢と
煎餅を噛る魔利沙。

「…なぁ、霊夢。」

「…何かしら?」
する事もないので
掃除している白夜を
見ながら話す。

「…なんかもう
あいつ主夫だよなぁ…」

「…まぁ、そうね。」
家賃の代わりとはいえ
今している掃除に
朝昼晩の御飯作り、
洗濯に食器洗い等々
もう完全に主夫の
仕事である。

「…そういえば
どうしたの?
白夜に何か用事?」
相変わらずお茶を
飲みながら聞く。

「ん?いや、
なんとなくな。
…よく考えたら
あいつがここに
来てから
十数日経ったけど、
神社から外に出たの
見た事無いからな。
もうそろそろ
土地勘付けさせて
やろうかなってさ。」
だらだらと足を伸ばし
軽く欠伸をする。

「…土地勘か…
確かにそうね。
地理が分からなくちゃ
お使いもろくに
頼めないしね。」
納得した様に苦笑する。

「霊夢さ〜ん、
終わりました〜
箒を持ちトテトテと
歩いてくる。

「あ、御苦労様。
箒はそこに置いといて。
…それと、今から
三人で出掛けるわよ。」
立ち上がり、伸びを
しながら言う。

「…お出掛け…ですか?」
きょとんとして
首を傾げる。

「あぁ、お前も幻想郷に
結構馴染んできただろ?
だからもうそろそろ
色々案内してやろうと
思ってな。」
そう言いながら
にかっと笑う魔理沙。

「…地理覚えて
くれないとお使いも
頼めないしね。」
苦笑しながら
付け足す霊夢。

「素直じゃないなぁ、
霊夢は。」

「うっさい。」

…そんな二人の
やり取りを見て
思わず苦笑する。

「…あ、そうだ。
白夜、これお駄賃の
代わりにあげるわ。」
そう言って何かを
握らされる。

「?」
見てみると、それは
掌位の白い羽根だった。

「この前拾ったんだけど
ちょっとした
御守りみたいなモノよ」
にっこりと笑う。

「はぁ…ありがとう
ございます。」
苦笑しながらその羽根を
大切にしまった。







「…はい、ここは
霧の湖だ。」
箒に乗った魔理沙が
砂を巻き上げながら
地面に降り立つ。

「…凄い霧ですね…」
霧の所為で湖の
反対側が見えない。
無意味に手を
ぱたぱたして
霧を飛ばしてみる。
…殆んど変わらない。

「…ま、湖よりも
覚えておいた方が
良いのはあっちね。」
そんな様子に
苦笑しながら
湖のすぐ近くを指差す。

「?…ん〜…?」
霊夢が指差した
方を目を凝らして
よく見てみる。

すると、霧の所為で
よく見えないが
何やら大きな影が
見える。

「…あれは…お屋敷…?」
ふらふらと近づいて
みると、それは
全てが深紅の
お屋敷だった。

「ここは紅魔館、
レミリアとか咲夜とかが
住んでる屋敷だ。」

「ふぇ〜、咲夜さんと
レミリアさんって
本当にお屋敷に
住んでたんですね…」
いかにもお嬢様と
その従者の格好だから
そこまで驚きは無いが。

「…ま、今はお昼だから
レミリアとフランは
寝てるわね。」

「吸血鬼だしなぁ。」

「そうなんですか…
挨拶はまた今度に
しておきますか。」
少し残念。

「……………………」

「………………………?」
ふと視線を感じて
屋敷の上の階を
見上げる。

…誰かいたような
気配があったが、
窓には誰も映っては
いなかった。







…その頃、紅魔館からも
彼らを見ている
人影があった。

「…お姉様〜」

「…何よフラン…
私まだ眠いんだけど…」

少し興奮気味な声と
眠くて不機嫌な声が
会話をする。

「…あの銀髪の
男はだぁれ?」
窓に張りつき
ほらほらと指差す。

「…ん〜…?
…あぁ、白夜ね。
彼はつい最近
幻想郷に来た
私の新しい僕候補よ。」
眠い所為なのか
素でなのかは
わからないが
ぼーっと言う。

「お姉様の僕候補…
…だからかぁ〜、
あの男から凄い
強い気を感じるのは」
一人で納得したのか
手をぽんと叩く。

「…まぁ良いでしょ…
…そんな事より
私は寝るわよ…」

「あ〜私も一緒に
寝る〜♪」







「…ねぇ貴方。」

「…はい?」
声が聞こえたので
振り向く。

…誰もいない。

「…ほら、こっちよ。」

再び振り向く。

…誰もいない。

「…ほらこっちこっ…」

「…いい加減に
しなさい。」

ぽかっ

「痛っ」

今度は霊夢の
声で振り向く。

すると、空間が
裂けていて
その「スキマ」から
頭を押さえた
一人の女性が
上半身を出していた。

「…あ、ゆ、紫さん」
反射的に近くにいた
魔理沙の後ろに隠れる。

「…も〜、隠れる事
ないじゃない。」
不満そうな声で
不満そうな顔をして
金髪の女性…
…八雲紫は唇を尖らす。

「す、すみません。」
反射的に謝る。

「まぁいいけど。
ところで貴方達
何してるの?」
苦笑しながら
聞いてくる。

「えっと、白夜に
土地勘付けさせようと
思ってね。」

「まぁ若干ただの
名所巡りっぽいがな」

「…ふ〜ん…♪」
…何かにやりと
口元を歪ませる。

…嫌な予感がする。

「…それじゃあ
あそこも
行かなきゃね♪
はい目を閉じて〜♪」

「…?」
取り敢えず目を閉じる。

ぱちんと指を鳴らす
音が聞こえた。

「え?」「へ?」「ふぇ?」
間の抜けた声が3つ並ぶ。

…と、次の瞬間には
そこに人影は
無かったそうだ。
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