隣のお前が蜜柑の白い繊維をちまちまと取って居るのが見える。
繊維に味は無いだろうし、別段不味い訳でもあるまい。其れを何故一々取りたがるのか良く分からん。
其れでも爪を使いながらせっせと取って居るもんだから、特に口出しもせずに見て居た。
ニュース番組からはアナウンサーの解説が聞こえて来る。テレビの音は絶えず為るが、生身の人間の会話は無い。
「元譲ー、口開けて」
「…は?」
お前が差し出したのは、白い繊維どころか皮も取った剥き身の蜜柑。
「食え、と」
「食べさせたげる」
「…まさかお前、其れだけの為に繊維まで取って居たのか」
「ご明察!」
子供がが誉められるのを待つように笑みを浮かべ、早く口を開けろとばかりに口先に蜜柑を差し出す。
此れで断ると煩い。前にも差し出された物を止めろと断ったら、意地に為って勧めて来た。出掛った溜め息を飲み込み、仕方無く口を開けた。
酸味が少なく、甘味が強い。其れに皮が無い性か無駄に飲み込み易い。
「お母さんと子供みたい」と笑うお前がにやにやと笑うもんだから。
「子供、か」
未だ笑みを湛え続ける唇に己の其れを押し付けた。去り際に舐め取った唇が酷く甘いのも、お前の顔の赤みに比例為て居るのか。
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