長編【下弦は宵闇に嗤う】

□5.那田蜘蛛山
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四人の怪我が癒えた頃、クイナから緊急指令を告げられた。那田蜘蛛山、という山に全員で向かうことになった私達は道中を急いでいた。

「へぇー、善逸っていびき煩いんだ。」

足元の悪い山道を走る私の肩にはクイナと、何故かチュン太郎が乗っている。そして走り始めてからずっと、もう本当にずっと、二人の会話を聞かされているのだ。せめて左肩に乗ってくれれば聞こえづらくて気が散らなかったのに、なんて言ってももう遅い。

「ヒツメ?ヒツメは寝相がちょっと悪いかな。」

「ちょっと!余計な事言わなくていいってば!!」

なんてことを言いふらすんだこの鎹鴉は。会話に入らないように努めていたけど、この内容には流石に反応してしまった。笑いを堪えている様子の善逸が視界の端に居てそれがまた恥ずかしさを助長させてくる。
藤の家紋の屋敷で一緒に数日過ごしたのだから寝相が良くないことは皆に知られていたとしても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。もう!と肩を手で払うとクイナとチュン太郎は楽しそうに会話を続けながら飛び去って行った。

「ネゾウってなんだ?強ぇのか?」

伊之助がわくわくしながらそう言う。彼が世間知らずで良かった、なんて今だけは思ってしまった。


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