長編【下弦は宵闇に嗤う】
□6.機能回復訓練
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私達の傷の手当てをしてくれたしのぶさんは言葉では言い表せない人だと思う。表情こそ、にっこりとしているのに匂いが笑顔のそれとは少し違う。
善逸はしのぶさんのことを、めちゃくちゃ可愛いけど規則性が無くてちょっと怖い、なんて言っていたっけ。
「もしもーし。」
怖い、というのは私も何となく分かるような気がする。
「ヒツメちゃーん?」
「聞こえてますかー?」
「っ、はい?!」
誰かに話しかけられていると気付いて顔を上げる。綺麗に整ったしのぶさんの顔と、不思議そうな表情の善逸。しのぶさんの紫色の水晶のような瞳が私をじっと見つめていて、同性なのにも関わらず心臓がどきっと音を立てた。
「身体、見せてください。」
しのぶさんは善逸とのベッドの間に、白いカーテンを引いて、椅子に腰掛けた。
言われた通りに上半身の服を脱いでいくと、カーテンの向こう側から呻き声が聞こえた。
「ぎゃぁぁぁ…こんなの、生殺しじゃないの…!!」
聞いちゃ駄目だ!と念仏のように唱える善逸。何を必死に聞かないようにしているのかは分からないけど、恐らく碌でもないことだろう。
服を脱ぎ、肌寒さに身震いしながら左腕をしのぶさんへと差し出す。
「胸はやはり綺麗に治ってますね。問題はこっちですが…。」
「むっ…胸ぇ?!」
「善逸、うるさいよ。」
情けないなぁ、なんて思いながらしのぶさんをちらり、と見ると特に気にしていない様子で私の左手を曲げたり伸ばしたりしている。
「こうすると痛いですか?」
「…いえ、大丈夫です。」
そうですか、と言ってしのぶさんは私の左手を離した。再び服を着るように促され、それが終わるとカーテンを引かれた。向こう側のベットには顔を真っ赤にした善逸が居た。
「では、二人とも機能回復訓練に入りましょうか。」
しのぶさんはまたにっこりと笑って私達に言った。
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