長編【下弦は宵闇に嗤う】

□7.無限列車と十二鬼月
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「うおおおお!主の腹の中だ!!」

「うるせーよ!いい加減静かにしろよ、恥ずかしい!」

伊之助が興奮しながら叫ぶ。善逸と私はそんな彼を必死に宥めていた。
蝶屋敷での療養と訓練を終えて、私達は町へと来ていた。特に任務を任された訳でも無く、強いて言えば炭治郎の用事に私達が着いてきた、というところだ。

久しぶりに乗る列車に何だか胸が弾む。最後に列車に乗ったのはお母さんの仕事について行った時で、それはもう何年も前のことだ。
流れる外の景色を見るのを楽しみにしていたけど、まさか伊之助のお守りがこんなにも大変だとは思っていなかった。

「うまい!」

列車の中を進んでいくと、向こう側から声が聞こえた。この声は煉獄さんだ。私達はゆっくりと声の方へと歩いて行く。座席の上から、特徴的な色合いの髪がふわふわと揺れているのが見える。
やっぱりあれは煉獄さんで間違いないだろう。

「煉獄さん。」

「うまい!」

私にうまい!なんて言われても困る。本当に変わった人だ。

炭治郎は煉獄さんに用事があったので、邪魔しないように私と善逸と伊之助は違う席へと座った。窓から身を乗り出す伊之助は本当に列車を見た事がなかったようだった。
列車と並走するから、なんて言い出した伊之助に煉獄さんが声をかける。

「危険だぞ!いつ鬼が出てくるか分からないんだ!」

伊之助を必死に押さえ込む善逸の顔が真っ青になる。

「え、鬼出るんですかこの汽車!!」

「出る!!」

私はなんとなくそんな気はしていたんだけど、それは私だけだったようだ。煉獄さんも、はっきりと答えてしまうものだから、善逸は叫び、飛び上がった。
本当に鬼殺隊としての自覚がない人だ。

「善逸、皆居るから大丈夫だよ。」

「嫌だ!降りる!!」

べそべそと惜しげもなく醜態を晒す善逸を放っておけなくて、声をかけてみるけど反応は変わらない。
普段はその欠片もないけれど、いざとなったら強くて頼れる仲間だ。
だからこそ私は善逸を放ってはおけないのだけれど。

「切符…拝見いたします……。」

そうこうしているうちに、車掌さんが私達のところまで回ってきた。車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれる。
私は善逸と伊之助の分の切符を車掌さんに手渡す。パチン、という音が懐かしいと思うと同時に、ぞくり、と背筋に嫌な感じがした。


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