長編【下弦は宵闇に嗤う】

□18.襲撃
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二本の刀のうちの一本、干将。莫耶よりも刀身が厚く、重い刀。莫耶よりも先に研ぎ終わった干将を片手に林の中を走るだけでも辛い。こんなに走りっぱなしなんてことは早々ないからだ。

「今日も付き合ってくれてありがとうね。」

「ヒツメちゃんの為ならいくらでも付き合うよ!」

へらり、と笑う善逸に釣られて私は顔を綻ばせる。すっかり暗くなってしまった林の中を歩く途中、善逸がふと足を止めた。

「善逸?」

どうしたの、と言いかけた言葉が喉で止まる。夜風に乗って流れてきた臭いは、私達がよく知るものだった。

「血の臭いがする。」

「…鬼だ。」

まさか刀鍛冶の里に鬼が現れるなんて。背筋を嫌な汗が伝う。里の皆は私のよく知る人達だ。この血の臭いは誰なんだろう。考えたくもないのに頭の中をぐるぐると嫌な想像が巡る。

「ヒツメちゃん、行こう。」

善逸が私の返事を待たずに走り出す。そうだ、とりあえず臭いの元へ向かわないと。夜風に乗ってくる血の臭いだけじゃ場所を特定しづらい。ここは善逸の耳が頼りだ。


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