長編【下弦は宵闇に嗤う】
□21.やるべき事と決意
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悲鳴嶼さんの稽古は私達に何かを強制するものではなかった。自主性を主体にした稽古で、辞めたければ、いつ辞めていいのだそうだ。もちろん、炭治郎や善逸、伊之助はすぐに山を降りることは無く、稽古を続けていた。
夕餉を終え、湯浴みから自室に戻るところだった私は夜風に当たりながら縁側を歩いていた。
通りがかった部屋から話し声が聞こえて思わず足を止めた。
「そうそう、我妻が泣きついてた人。」
やっぱり善逸の名前だ。この話し方からするとこの場に善逸は居ないらしい。
「ヒツメさん…だっけ?あの人、鬼と戦ってる最中に痣浮き出たって聞いた。」
「まじか。恋柱は別として、痣の発現に男女の差は無いってことかよ。」
「噂だけどな。でも痣って寿命の前借りみたいなもんだろ?」
寿命の前借り。しのぶさんから教えてもらった話のことだ。分かってはいるけど、やっぱり良い気はしない。
「いいよな、俺も寿命の前借りで痣が発現しねぇかなぁ。」
「馬鹿、そんな簡単に発現したらこんなに苦労しねぇよ。」
襖の向こうから聞こえる笑い声に、胸が締め付けられる。私は音を立てない様に、そっとその場を離れた。
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