長編【下弦は宵闇に嗤う】

□22.無限城
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底が見えない空間に落とされ、善逸と引き離されそうになる。善逸が身体を捻り、呼吸を使って開いた襖に飛び込む。私も追いかけるようにして同じ部屋に飛び込んだ。

「これ、ほんとに血鬼術?」

長らく掃除がされていない和室独特の埃臭さに軽く咳き込みながら善逸に聞いてみる。この異様な空間、臭い、感覚。血鬼術で間違いないはずだが、こんな大規模な血鬼術は無限列車以来だろうか。開いたままの襖から身を乗り出して下を覗き込むとそこにはただ深い闇が広がっていた。
直後、ぞくり、と全身に鳥肌が立つ。鬼の臭いがする。喉がひりつくような、ひどい臭いだ。

「ヒツメちゃん。」

善逸が日輪刀に手を掛けて静かに言う。その目は真っ直ぐに反対側の閉じた襖を見据えている。

「危ないと思ったら、一人で逃げて。」

前を向いたまま、善逸はその襖をゆっくりと引いた。襖の向こうには一匹の鬼がこちらに背を向けて座っていた。
鬼にしては珍しく、刀を持っている。

「はは、変わってねぇなぁ。」

鬼は立ち上がるとゆっくりとこちらを向いた。右目に上弦、左目には陸と刻まれている。

「壱ノ型以外使えるようになったか?なぁおい善逸。」

「適当な穴埋めで上弦の下っぱに入れたことが随分嬉しいようだな。」

いつもとは違う善逸の声。会話から察するに、きっとこの鬼が善逸の兄弟子だろう。お互い驚くこともなく淡々と言葉を交わす。

「雷の呼吸の継承権持ったやつが何で鬼になった。」

兄弟子、獪岳は悪びれることもなく楽しそうに笑っている。それが更に善逸の神経を逆撫でする。

「アンタが鬼になったせいで、爺ちゃんは腹切って死んだ!!」

その言葉を聞いても、獪岳は驚くこともなく表情を崩さなかった。


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