短編

□隠し切れない思い
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「善逸は、ヒツメに告白しないのか?」

「…っぶ!!」

炭治郎に真顔で言われて善逸は口に含んだばかりの緑茶を盛大に吹き出した。

「いや、別にヒツメは好きとかじゃ…!」

善逸は必死に説明するが、真っ赤な顔と声色はまるで隠し切れていない。どちらにせよ、炭治郎にしてみれば、好意の匂いなどすぐに分かってしまうのだが。

「そうか。じゃあこの簪、ヒツメに渡しておいてくれないか?」

炭治郎は、青色の簪を取り出して、善逸に差し出す。へ?と気の抜けた返事をする善逸の手にそれを握らせて炭治郎はにっこりと笑った。

「何とも思ってないなら、別に大丈夫だろ?」

善逸は、受け取ってしまった簪と炭治郎を交互に見て慌てるが、炭治郎は歩いて行ってしまった。

ヒツメは昨日の任務で足を怪我したとアオイから聞いている。
(ヒツメの前だとちゃんと話せないんだよなぁ…。)

善逸は、そう思いながらヒツメのいる部屋の前まで歩く。青い簪を見つめて、ヒツメの姿を思い浮かべる。急に恥ずかしくなってしまい、慌てて首を振る。

「そんなとこで何してるの?」

前から話しかけられ、善逸は赤い顔をそのままに視線をあげる。足に包帯を巻いた簪の持ち主が不思議そうにこっちを見ていた。

「あれ、それ私の簪…」

「あ、これね!!ヒツメに渡しておいてって頼まれたから届けにきたの!じゃあね!!」

善逸は走り寄って、簪をヒツメに押し付けるようにして渡すと、くるりと背を向けて帰ろうとした。こんな顔では、とても目を合わせられない。

「ちょっと待って!部屋まで連れてってほしいんだけど!」

足を止めて静かに深呼吸する。

(大丈夫だ、自然に…)

「肩貸すから、掴まって。」

絞り出すように小さく言うと、ヒツメに肩を貸す。善逸の首に回された腕が細くて、本当に日輪刀を振るっているのかと、疑いたくなる。

(小柄だし、腕だってこんなに細いし…って何考えてんだ俺!!)

先程の炭治郎との会話を思い出して、また顔が熱くなる。

「軽い捻挫みたい。あと少しで首斬れそうだったから、懐まで突っ込んじゃった。」

ヒツメは、困ったように小さく笑いながら言う。ヒツメが日輪刀を持ち、鬼の首を斬るところを想像すると、息が詰まりそうだった。ヒツメは自分の命をもろともせずに無茶をするところがある。

「俺、ヒツメが怪我するの嫌だ。」

「…え?」

思ったことがそのまま口から出た、というのが正しいのだろう。あ、と善逸が声を漏らす

「あ、いや、ごめん!そういう意味じゃなくて…!!」

言い訳をしてしまい、余計に気まずくなる。ヒツメの前だと、いつもの自分で居る事が難しくなる。

「私も…善逸が怪我するの見たくない…かな…。」

これは自分だけに向けられた言葉なのだろうか、と都合の良い事を考えてしまう。ヒツメの心音が煩く鳴っている。

「ねぇ、期待していいの?」

この音は聞いたことがある。恋い焦がれた相手を想う音。自分と同じ、音だ。

「…ずるい、自信あるくせに。」

ヒツメは炭治郎や善逸のように嗅覚や聴覚が優れていない。だけど相手の目や仕草で何を考えているかぐらいは分かる。
善逸が自分と同じ気持ちでいる事もヒツメには分かっていた。

「俺、ヒツメちゃんと結婚したい!」

「…早すぎない?」

「だって俺達いつ死ぬか分かんないんだよ?」

鬼と生身で戦う鬼殺隊は、いつも死と隣り合わせだ。もしかしたら俺は次の任務で死んでしまうかも知れない。善逸はいつもそう言っている。

「分かった。」

「ほんと?!結婚してくれる?!」

「その代わり、」

蜂蜜色の目を輝かせながら善逸はヒツメの言葉を待っている。

「もう、死んじゃうなんて言わないでほしい。」

私が同じことを口にしたら善逸は、そんなこと言わないでよ、と泣きつくだろう。それは私だって同じなのだ。

「じゃあ、俺のお願いも聞いてくれる?」

善逸は、ヒツメの包帯に包まれた片足へと視線を落とす。

「もう無茶な戦い方はしないでよね。」

少し拗ねたような声で言われ、思い当たる節がある私はぎくりとしながらもゆっくりと頷いたのだった。


 

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