短編
□死ぬまで添い遂げます
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私は清々しいくらいの青い空を見上げて、溜息を吐く。恋人の炭治郎とは任務の関係で一ヶ月も顔を合わせていない。もしかしたら会えるかもしれないと思い、蝶屋敷へ来たみたものの、そう簡単にはいかなかった。
仕方がないことだと分かっているけど、寂しい。鬼殺隊である前に、私は一人の女なのだ。縁側に腰掛けて、洗濯物を干すアオイちゃんの背中を眺める。
「私だけが好きみたい…。」
呟いているとふわり、と懐かしい香りがして隣を見ると、いつの間にか炭治郎が側に座っていた。
「え、今日はいないはずじゃ……?!」
「随分と熱心に彼女の背中を見つめていたものだから声かけづらくて。」
いつから見られていたのか。恥ずかしくなって顔が一気に熱くなる。
「そ、そんなんじゃないよ!」
「ごめん、ちょっと意地悪言ったな。」
炭治郎は笑いながら、隊服をごそごそと弄る。何かを探しているようだった。
「任務の帰りに、買ってきたんだ。」
ぽん、と手に乗せられたのは桃色を基調とした柄の布地で作られた、小物入れのようなもの。中央に、小さな留め具がついており、中に何か入っているようだった。
「あ、ありがとう…。」
「開けてみてくれ。」
促されて、丁寧に留め具を外して中に入っていたものを取り出してみる。半円を描く、木で作られたそれは、女性には必要不可欠なもの。髪を梳く為にしては彫られた模様や装飾が少し派手に施されていた。
「こんな高価そうな櫛、私が受け取ってもいいの
…?」
「勿論だ、その為に買ってきたんだから。」
満面の笑みで微笑む彼は、眩しくて、真っ直ぐだ。その真っ直ぐなところが、私は大好きで。
「炭治郎、女の子に櫛をあげる意味知ってる?」
「…え、まさか俺はとんでもないことをしたのか?!」
彼は、ばっ、と表情を真顔に戻して詰め寄ってくる。その意味を知っていても知らなくても、私の答えは決まっているのだ。くすくす、と笑うと炭治郎が頬を膨らませる。
「この櫛、大切に使うね。」
後に意味を知った彼が私になんて言うのか、楽しみに待っていようと思う。
苦しい時も死ぬまで頑張って一緒に添い遂げます