短編

□頑固者ほど困りもの
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炭治郎と私は合同任務を終えて帰路についていた。段々と連携も取れるようになってきて、今日のように任務を早く終えられる事が度々あった。
その途中、私は炭治郎の妹、禰豆子ちゃんにお土産を買っていってあげようと町に寄っていた。

特にサプライズというつもりでもなかったし、炭治郎にもアドバイスを貰いながら私は小物屋へと入った。
きらきらと光る簪や小さな宝石がついた櫛など、私が欲しくなるようなものも沢山置いてある。炭治郎店の中へは入らず外で待ってくれていた。

「これにしようかな。」

私が手に取ったのは小さな髪留め。いつも禰豆子ちゃんは前髪を束ねているんだけど、あれは炭治郎がやってあげている。炭治郎は長男ではあるけど、男の子だから髪の結い方を知らないのだ。でも挟むだけの髪留めなら、炭治郎でも留められる。

桃色に塗られた髪留めを手に取ってお金を支払う。

「あ、良かったらこれ、使っていって下さい!」

店員の女の子がお釣りと一緒に何かを渡してくれた。掌よりも小さい小瓶で、中には透明な液体が入っている。

「香油なんですけど、少し作りすぎちゃって。商品を買ってくれた人に使ってもらってるんです。」

小瓶からは椿のような良い匂いがする。女の子から悪意は感じられないし、正直私も気になる。

「髪に付けたら、動くたびに香りますよ!」

笑顔が可愛い女の子が、あれやこれやと説明してくれる。

「じゃあ、少しだけ…。」

「もちろんです!」

商売上手だなぁ、なんて思いながら店を出る。

「ごめん、お待たせ。」

「そんなに待ってないよ。…ん?」

炭治郎は私の方へと向き直ると眉を顰めて、すん、と匂いを嗅ぐ。あ、そうか、炭治郎は鼻が利くからこの距離でも香油の香りが分かるんだ。

「ちょっとごめん。」

「なに、ひゃっ…?!」

炭治郎が鼻を鳴らしながら身体を寄せてくる。ちょっと近い、近すぎる…!!
焦る私の髪を一房手に取ると納得したように頷く。

「髪から花のような匂いがする。」

「そ、そうだよ、香油。中でもらったから…あの、ちょっと近い…。」

「…っ、すまない!!」

匂いの出所を探すことに夢中になっていた炭治郎は、私の言葉に気づいて身体を離した。心臓がどきどきと音を立てている。

「すごく良い匂いがしてつい…!」

「いや、大丈夫、私の方こそごめんね。」

炭治郎はこの香りを良い匂いだと思ってくれているみたいだ。鼻が利く人からすると濃い匂いかと思って少量にしておいて良かった。

「この香油、買っておけば良かったなぁ。」

炭治郎がこんな反応をしてくれるなら。なんて思っていると口に出ていたようで、横に歩く炭治郎がまた長い息を吐いた。さっきからこうして深呼吸のようなことを繰り返している。

「さっきからどうしたの?」

「…いや、何でもないんだ。」

そんなすごい顔で嘘をつかれても…。私じゃなくとも嘘をついていると分かるだろうな。

「俺は長男だから、大丈夫だ。」

「…答えになってないよ?」

炭治郎は答えてくれるはずもなく、口の端をきゅっと結んで前を歩く。

「炭治郎、少し休まない?なんか辛そうだよ。」

「いや、駄目だ。我慢出来なくなる。」

はぁ、と辛そうに息をする炭治郎。なんだ、厠に行きたいのか。さっき町に寄った時に行けば良かったのに。

「冷や汗がすごいよ、ほんとに大丈、…っ?!」

掻き上げられた前髪で露わになった額には玉のような汗が滲み出ている。私の羽織の袖で拭ってあげると、熱の篭った緋い瞳と一瞬目が合って、突然強く抱き締められた。

「ごめん、少しだけ…。」

炭治郎のふわふわとした髪が私の顔を擽る。なんだか子どもみたいだなぁ、なんて思いながら背中に手を回す。鬼殺隊の仲間は皆、兄弟のようなものだ。善逸なんて何回抱きつかれたか分からない。だけど炭治郎はそれをしなかった。だから今の状況は本当に珍しい。

「炭治郎、早く帰ろ。」

「……そう、だな。」

その後は落ち着いたのか、蝶屋敷までは炭治郎もいつも通りだった。

蝶屋敷に着いてすぐ、すれ違ったしのぶさんに声をかけられ、その説明に声をあげてしまった。

「催淫効果?!」

「恐らくその香油でしょう。」

でもあの時の女の子は悪いことを考えてるようには見えなかった。そういえば、何度か外へ視線をむけているなぁとは思ったけど炭治郎がかっこいいからだろう、くらいにしか思っていなかった。

「相手が竈門くんで良かったですね。善逸くんならどうなっていたか。」

「そ、そうですね…。」

善逸だったら、貞操の危機だったな。自分に正直だし、我慢とか出来なさそう。炭治郎でさえあんなに辛そうだったのに。厠を我慢しているんだ、なんて呑気な事を思っていたあの時の自分を殴ってやりたい。

「ヒツメ!」

しのぶさんと別れて縁側を歩いていると、炭治郎に呼び止められた。相変わらず顔は赤いし息も荒い。それが催淫効果だと分かってしまった今、炭治郎相手でも少し身構えてしまう。
炭治郎は私の前で、大きな声で言った。

「俺と結婚してくれ!!!」

「、はぁぁ?!」

なんで、どうして、そうなる?抱き締めてしまった責任?それにしては重たすぎない?もしそうだとしたら私は善逸と何回結婚しなきゃいけないんだ?

「本当はずっと好きだった!順番を違える前に言っておく!!」

「いや、違えないで!なんなら結婚じゃなくてお付き合いだよ!!」

もう既に色々と違えている炭治郎に突っ込みをいれる。

「お付き合いの間に俺は一線を超えてしまう!」

嫁入り前の女の子と一線を超える事を気にしているんだろう。にしては自分の気持ちに素直すぎないか?
とりあえず日を改めよう。今も私の身体から香油の香りがしているに違いない。

「考えとくね!」

「あ!待て、逃げるな!!」

逃げるようにその場を離れるけど、炭治郎は諦める事なく追ってくる。善逸にもしつこいな、と思うことがあるけど、その比じゃないぞ炭治郎は。

恨みでもあるのかと言いたくなるほど、執念深く追いかけ回される羽目になった私が観念するまでそう時間は掛からなかった。



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