短編

□こんな積極的なんて聞いてない
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「炭治郎が冷たい?」

金色の髪を揺らしながら、咥えていたストローから口を離す。

「気のせいだろ。」

「冷た。人が真剣に悩んでんのに。」

ふん、と善逸は鼻を鳴らす。善逸ってこんなに意地悪だったっけ?本気で悩んでなかったら、こうしてわざわざファーストフード店に呼び出したりなんかしないのに。
私と善逸と炭治郎は幼馴染みだ。だけど、最近になって突然炭治郎が私に冷たくなった。それは絶対に気のせいなんかじゃない。
話しかけても無視されたり、目が合っても逸らされたり。極めつけには、しばらく話しかけないでほしいとまで言われてしまったのだ。

「話しかけないでくれ、なんて言われて気のせいなんて思えないよ。」

「思春期とかじゃないの?」

なにそれ。一体私達は何歳だと思ってるんだ。仮にも炭治郎が思春期なら、善逸だって似たようなものだろう。こいつ、本当に適当も適当だな。

「なに、炭治郎と話したいの?」

「話したいっていうか、理由が知りたい。」

トレーに乗った剥き出しのフライドポテトを口へと放り込む。私が悪いことをしたのなら謝る。だけど訳も分からないまま、無視をされることが気に入らない。

「それは炭治郎に聞かないと俺の口からは言えないなぁ。」

「え、善逸知ってるの?」

「…あ。」

やってしまった、とばかりに善逸は口の端を引きつらせる。

「なんで善逸には言うのに、私には言ってくれないのかなぁ。」

「え、理由聞かないの?」

「なんで善逸から聞かないといけないのよ。私は炭治郎の口から直接聞きたいの。」

ここで善逸に理由を聞いたら、二人の関係が悪くなるかもしれないし。私も、善逸から聞いたところで、炭治郎から聞かないと納得できないだろう。

「まぁ、でも炭治郎はヒツメのこと、嫌ってないよ。ヒツメのせいでもないし。」

「なにそれ。ますます訳が分かんない。」

なんか考えれば考えるほど腹が立ってきた。私の機嫌の悪さを察したのか、善逸は空になったトレーを持って立ち上がる。

「炭治郎連れてくる。」

「…もういいや。」

え、と善逸は立ち上がったまま固まる。

「もういいって、このままでいいってこと?」

「うん。もう腹が立って仕方ないし。炭治郎がその気ならもういいよ。」

理由を知っているからか、善逸は言葉を選んでいるようだった。善逸がここで私に何か言ったところで何も変わらない。
私もトレーに乗った最後のフライドポテトを食べて、立ち上がる。

「ちょっと待って、炭治郎と話した方が…」

「もういいってば。あんなやつ知らない。」

善逸に当たるなんて最低だ。それもこれも全部炭治郎のせいだ。苛立ちながらトレーを片付ける。

「ヒツメ。」

「なに。」

「ごめん、ヒツメ。」

「だから、なに…え?」

善逸じゃない。久しぶりに聞く声だ。驚いて振り向くと炭治郎が立っていた。

「ヒツメ、ちゃんと話すから。」

「なに、いきなり…!」

どうしてここに?今まで散々無視してきたくせに!かっとなった私は炭治郎の静止を無視して早歩きで店を出る。

「待ってくれ!」

腕を掴まれて、引っ張られる。 話しかけないでくれ、と言ったのは炭治郎の方なのに。

「ごめん、話を…、」

ぼろぼろと堪えていた涙が溢れた。悔しい。あんなに腹が立っていたのに、炭治郎に話しかけられた瞬間、嬉しくなってしまった自分がいたのだ。

「ヒツメ、ちゃんと炭治郎の話聞いてあげてよ。」

追いかけてきたらしく、息を切らした善逸が言った。頬を涙が濡らしていくけど、拭う事はしなかった。私より少し背の高い炭治郎を見上げる。

「…好きだ。」

「…、は?」

それ以上言葉が出なかった。炭治郎が私を?どうしてこのタイミング?さっきまでの苛立ちはどこかへ消えていて、私は目を丸くして炭治郎を見つめていた。

「こんな気持ちになったのは初めてで…どうしたらいいか分からなくなって辛く当たってしまった。」

「うそ…そんなことある…?!」

確かに今までに炭治郎から人を好きになったとかそういう話は聞いたことがない。好きな子ほど意地悪したいとか、辛く当たっちゃうなんてそんな漫画みたいな事本当にある?!

「ヒツメが炭治郎を「もういい」なんて言うから俺焦ったんだぞ!」

炭治郎に相談されてた俺の身にもなれよ!と善逸は後ろでぼやいた。

「ヒツメの事を考えれば考えるほど、胸が苦しくなって、離したくないというかこれが人を好きっていう気持ちだと…、」

「ちょ、ちょっと待って!炭治郎、そういうこと言って恥ずかしいとか思わないの?!」

聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。幼馴染みだと思っていた相手に、今更好きだなんて言われて焦らない方がおかしいと思う。

「俺はもう自分の気持ちを認めたからな。恥ずかしくないぞ。」

「私が恥ずかしいから!!」

炭治郎の顔を直視できない。そっぽを向く私の腕を、炭治郎が強く引っ張る。足が縺れて、吸い込まれるように私の体が炭治郎の胸の中へと収まる。

「これだと恥ずかしくないだろう?」

にっこりと笑う炭治郎に、胸が高鳴って何も言えない。こっちのほうがよっぽど恥ずかしい!炭治郎がこんな積極的だなんて聞いてない!!

そんな私達を憤慨する黄色い声が側で聞こえた。


 

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