長編【蛍石は鈍く耀う】
□1.割れた石
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翌日、炭治郎の様子も気になるし夜ご飯でも作ってあげようと放課後、急いで帰る。善逸に声をかけようとしたが、一日中浮かない顔をしていたので声をかけるのをやめた。
「ごめんな、ありがとう。」
炭治郎の家に入るとすぐに言われた。私の家も厳しい方でもないし、ましてや炭治郎の所へ遊びに行ってくると伝えれば何の問題もない。
「大丈夫、気にしなくて良いよ!」
明るく返して、お鍋の準備を進める為にキッチンに立つ。しかし思ったよりも他人の家のキッチンで作業するのは難しい。どこに何があるのかも分からないまま作業していると、後ろから炭治郎の声がした。
「ヒツメは座ってて。」
具材を切っただけで、殆ど何も出来ないまま、お鍋が出来てしまった。2人で出来上がったお鍋を突きながら、小さく言う。
「私、ご馳走になってない…?」
「いいんだよ、ご飯は誰かと一緒に食べるのが美味しいんだから。」
笑顔で私に言う炭治郎。なんだか胸が痛くなって、箸を置いてしまう。
「ねぇ、炭治郎。」
ん?と首を傾げて私をじっと見つめてくる。昨日とは全く違う雰囲気の炭治郎に、戸惑ってしまう。
「私に出来ることがあるなら、言って欲しい。」
しばらく、視線を外して色々考えていたようだったが、やがて困ったように笑う。
「俺は昨日、ヒツメが言ってくれた言葉に救われたんだよ。」
昨日の言葉、といえば炭治郎が生きていて良かったと言った事だろうか。今思えば、結構恥ずかしい事を言った気がする。
「本当に、救われた。」
繰り返して言う炭治郎の瞳は綺麗で、怖いくらい真っ直ぐだった。炭治郎は、だから、と続ける。
「俺はヒツメが側にいてくれるなら、何でもする。ヒツメ以外、どうでもいい。」
赫い瞳と目が合う。炭治郎は真面目すぎる、と私は言った事がある。本人は、そうかな?なんて言って笑ってたけど。あの時の笑顔は太陽のように明るくて、安心させてくれた。
「俺を1人にしないでくれ。」
あの時の笑顔と同じように笑う炭治郎。なのに全く違うものに見えてしまって、私は頷く事しか出来なかった。
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