長編【蛍石は鈍く耀う】

□3.赫い劈開
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「あれ、今日朝早いね。」

同じクラスの近藤さん。クラスの中では仲が良い方で、よく話す友達。

「うん、なんか目が覚めちゃって。」

「竈門君と我妻君は?」

「…知らない。」

前の席の椅子に近藤さんは腰掛ける。

「喧嘩でもした?」

「そういう訳じゃないんだけど…。」

炭治郎に会いづらいから、なんて言えば、なんで?と言われてしまうだろう。どう答えようか迷っていると、近藤さんが口を開く。

「あ、ごめん、今日放課後用事あるの。」

今日の放課後は文化祭の準備がある。それに参加できない、ということだろう。先週いきなり決まった訳だし、仕方がない。
分かった、と返して、近藤さんが自席に戻ったのを確認すると外を眺める。
なんだか頭が重い、なんて思っていると教室の入り口からよく耳にする声が聞こえた。

「ヒツメちゃぁぁぁん!なんで先に行っちゃうのさ!俺の事嫌いになったの?!別れるなんて言われたら俺死ぬよ?!」

「そもそも付き合ってないからね。」

おはよう、よりも先に叫ぶ善逸。私の机まで走ってきて、泣きはじめた。朝からこのテンションに付いていくのは厳しい。

「こら、善逸。ヒツメが困ってるだろ。」

「だって俺の彼女が冷たい…。」

「あ、カナヲ先輩だ。」

「えっ!どこ?!」

グラウンドにカナヲ先輩を見つけると善逸は泣いていた顔を元に戻して教室から急いで出て行く。

「えっと、おはよう…。」

「どうして先に行くんだ。」

この人もおはよう、より先に本題か。なんて思ってしまった。怒った口調で続けられる。

「聞いてるのか。」

その一瞬でさえ、見逃してくれない。炭治郎の怒っている顔が、暗い瞳が、私を見ている。

「最近の炭治郎、怖いし、何か変だよ。」

何故だか、思っていることを素直に言えた。変だ、なんて言われて良い気持ちじゃないだろう。炭治郎は目を見開いていた。

「そうか。」

炭治郎はそう言って自席に戻って行った。朝のチャイムが鳴り、授業が始まっても、炭治郎の去り際の悲しい表情が頭から離れなかった。


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