長編【蛍石は鈍く耀う】

□(1)金剛石の欠片
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何を考えているのか分からない人、というのが第一印象だった。赫い瞳は吸い込まれそうなほど綺麗で言葉や表情も優しい。なのに彼から聞こえる音だけは、ずっと怖かった。楽しいとか嬉しいの音の下には、いつも低くて暗い音がずっと小さく鳴っている。竈門炭治郎は俺の目にはそう映っていた。

俺が転校してきたとき、初めに話しかけてくれたのがヒツメで、今まで見てきた女の子の中で初めて一目惚れをした相手だった。本当に好きになった相手には『付き合ってよ。』なんて本気では言えたものじゃない、と思った。

ヒツメと炭治郎は幼馴染みだった。2人はお互い付き合うとか全く頭になくて、俺は1人でどうしたらいいのか悩んでいた。けれど3人で笑っている日々を壊したくなくて、気づけば高校生になってしまっていた。

「ヒツメとはそんな関係じゃないんだ。」

俺が炭治郎にヒツメと付き合ったりしないのか、聞いたとき炭治郎は笑ってそう答えた。いつも小さな低い音がその時だけ大きくなって、俺は本能的に嫌な音だと思った。

いつか、俺はヒツメには告白するだろうし、この『幼馴染み』の関係も終わってしまうかもしれない。

それでも3人ずっと友達のままで居たいって、この時まで俺は思っていた。


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