長編【蛍石は鈍く耀う】

□(1)金剛石の欠片
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炭治郎が学校を休んで3日目。今日は水曜日で、ヒツメが通学の時からずっとそわそわしている。お昼ご飯を食べながら、放課後に炭治郎の家に様子を見に行くことになった。どうやら体調不良とだけ連絡が来たらしい。

放課後になって、ヒツメと一緒に炭治郎の家に向かう。炭治郎の家が見えてきて、ヒツメが思い出すように言う。

「おばさん、いるかな?」

「まぁ、居なくても禰豆子ちゃんが居るでしょ!」

ヒツメは俺が炭治郎の妹の禰豆子ちゃんの事を好いていると思っている。確かに禰豆子ちゃんはすごく可愛らしいけど。

炭治郎の家に着く寸前に違和感に気づいた。炭治郎の家から、人の音が1つしか聞こえない。これは多分炭治郎だろう。ヒツメがインターホンを押そうとした腕を掴んで止める。

「え、なに?」

「いや、なんか…良くない音がする。」

炭治郎の音が、いつもと違う。色んな音が混ざってすごく乱れている。ヒツメが辛抱できずに反対の手でインターホンを押してしまう。

「ちょ、なんで勝手に…!」

「善逸、何も言わないんだもん。」

大丈夫だろうか。ヒツメは俺を残して施錠されていない玄関から中へ入っていく。集中してヒツメと炭治郎の会話を聞く。その瞬間、ヒツメの驚く声が聞こえて、俺の身体が動いた。階段を上がって、部屋の前に立つ。ヒツメは炭治郎に腕を掴まれながらも、必死に声を掛けていた。

(炭治郎…なのか?)

炭治郎なのかと疑いたくなるような、悲しくて、なのに嬉しい音。いつもの、優しい音は微塵もしない。家族が、なんて会話が聞こえたけどそれにしてもこの変わり様は…。

「俺もじいちゃんや兄貴が死んじゃったら…あんな風になるのかな。」

堰き止めていた何かが決壊したような炭治郎の姿を思い出すと泣きそうになる。なにより怖いのは、その黒い感情が、ヒツメに向いてしまったとき。そうはならないことを願うしかない。


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