長編【蛍石は鈍く耀う】

□4.硬度4
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月曜日。熱も下がり、学校へ行けると判断したヒツメはいつもより早めに家を出る。玄関を出ると、炭治郎がいつも立っている場所に善逸を見つけた。

「おはよ、熱大丈夫そうだね。」

「うん、色々ありがとうね。」

善逸は、へへ、と笑う。その横顔を私はじっと見つめる。普段と変わらない様子の善逸。善逸はこんな私と付き合いたい、って言ってくれた。だからこそ、炭治郎と向き合わなければいけない。炭治郎に対して恋愛感情はないものの、大切な友達だから、と炭治郎のことばかり気にかけていては善逸に申し訳が立たない。

昼休み、お昼ご飯を善逸と2人で食べる。炭治郎はいつも通り学校へ来ているけど、会話はしていない。あんな乱暴な事をされても、炭治郎が気になってしまう私は本当に馬鹿なんだと思う。

放課後、善逸と帰ろうと鞄を持って席を立つと、炭治郎が私の席の前まで歩いてきた。反射的にびくっと体が跳ねた。

「あ、たん…じろ…」

「話があるんだ。」

真っ直ぐに私を見る赫い目が、いつもの炭治郎で安心する。立ったまま、どうするか迷っていると帰り支度を終えた善逸がこちらへ歩いてくる。

「いいじゃん、一緒に帰ろうよ。」

善逸の一言で、一緒に帰ることになった。金曜日、善逸はすごく怒っていたから、この提案には少し驚いてしまった。

「で?話があるんでしょ。」

通学路のアスファルトをゆっくりと歩きながら、善逸は口を開いた。ざわついていた教室の中で炭治郎が言った言葉は善逸に聞こえていたらしい。耳が良いどころじゃない気がするけど。
炭治郎は、うん、と頷き、間を空けて言った。

「ヒツメ、本当にごめん。金曜日のことも、それまでのことも、全部謝る。怖い思いをさせて、悪かった…。」

炭治郎は頭を下げて、謝った。私は驚いてとりあえず顔を上げるように促す。

「ちょっと、いきなりどうしたの?!」

「俺はヒツメに酷い事をした。だけどもし許してくれるなら、」

炭治郎は今にも泣きそうな声で続けた。

「以前と同じように一緒に居たい。」

それは私が炭治郎に求めていたことで、報われないと思い始めていた願い。善逸は何も言わずに側でじっと私達の事を見ている。その視線は痛くて、私の揺らいだ気持ちを見透かしているようだった。

私の願いは、炭治郎と善逸と馬鹿なことをして笑う、あの日々に戻りたい。戻れるのかもしれないのなら。

「分かった。」

そう答えてしまう。もう一度だけ信じたい。甘い考えなんて自分でも分かってるけど。
私は炭治郎の言葉に、つくづく弱い、と思う。


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