長編【蛍石は鈍く耀う】

□(2)向日葵の音
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次の日。今日は土曜日で、クラスの何人かで文化祭に必要なものを買い出しに来ていた。昨日のヒツメの事も気になっていたから面倒だけどちょうど良かった。

「我妻は水曜日な。」

グループ分けを決めようと言いだした同じクラスの吉田。こいつからはいつも下心丸出しの音がする。同性の俺でも引いてしまうくらい。炭治郎も俺と同じ事を言ってた。炭治郎は他人の感情に敏感だ。俺は敏感というより、聞こえてるから分かるだけなんだけど。

「甘草さんは金曜日。」

そう言いながらヒツメの苗字を書いていく吉田に思わず声が出てしまう。

「えー!俺、ヒツメちゃんと同じが良いんだけど!!」

「我妻は金曜日、委員会だろ?出なかったら冨岡先生めっちゃ怒るじゃん。」

こいつ!わざと俺とヒツメを別の日に振り分けやがった!吉田はちゃっかりとヒツメと同じ金曜日の欄に自分の名前を書いた。こんな変態野郎とヒツメが一緒なんて!

「そんなの、ヒツメちゃんが金曜日じゃなかったら良い話じゃん!!」

食い下がってみるが、周りの人間に、もう良いじゃん、なんて言われてしまう。くそ、納得いかない!でも決まってしまったものはどうしようもない…。

帰り道、ヒツメを家まで送る途中。今日は終始楽しそうだったな。俺は終始悔しかったんだけど。

「ヒツメちゃん、今日楽しそうだったね。笑ってたし!」

「…善逸はグループ分けの時泣いてたね。」

「俺はヒツメちゃんと一緒が良かったの!しかも男3人なんて何も楽しくないし!!」

ヒツメの為に泣きながら吉田を止めたのに!笑われてしまった!まぁ、ヒツメが笑うならそれでもいいんだけど。
笑った顔も可愛いなぁ、一目惚れしてから俺は何度ヒツメを可愛いと思ったか。

ぞくり、とする程の嫌な音。悲しい、どろどろとした音。炭治郎が近くに居る。

「ヒツメ、」

ん?と俺を見て首を傾げるヒツメ。

「もし、ヒツメが傷つけられるような事があったら、俺はそいつを許さないし、その時は遠慮しない。」

ヒツメは顔を赤くして、うん、と言って家へと入っていった。

俺は、炭治郎を救えないんだとカナヲ先輩との会話から結論づけた。だけどヒツメが炭治郎を救いたいと思うなら。俺がそれを阻む理由はないし、救えるなら救ってほしい。炭治郎は俺の大事な友達である事には変わりない。
でももしヒツメが炭治郎によって傷つけられたり、俺に助けを乞うような事があれば、その時はまた別の話になってくる。

「たまたま聞こえたんだが。」

「聞こえるように言ったつもりだけど?」

炭治郎が、話しかけてくる。本当に炭治郎なのかと聞きたくなる程、こっちまで苦しくなるような音。

「俺はヒツメが大事なんだ。邪魔しないでほしい。」

「何が大事だよ。言ってる事と、やってる事が矛盾してるよ。」

「ヒツメが居れば、もう何も要らない。」

炭治郎のヒツメへの気持ちには愛がない。彼は本当に、自分の為にヒツメを欲しているのだ。ヒツメが大事なのは俺だって同じだけど、それは炭治郎とは違う意味で、だ。
微妙に会話もずれている。そもそも炭治郎は自分の意見を主張しにきただけで、俺の意見を聞く気など更々無いのだろう。歩いて行こうとする後姿に、声をかける。

「ヒツメが俺に助けを求めてくるような事があったら。」

俺の言葉に耳を傾けなかった炭治郎の足が止まる。

「いくら炭治郎でも許さないよ。」


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