長編【蛍石は鈍く耀う】

□(3)永遠の絆
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炭治郎の提案で、文化祭を3人で回ることになった。中庭で俺は何故かうどんとたませんを奢らされた俺。可哀想すぎない?

「炭治郎って俺たちに容赦ないよね。」

ヒツメは他人事のように笑いながら俺の奢ったたませんを食べている。炭治郎は俺とヒツメ以外には見せない部分がある。例えば、さっきの露店だって俺達じゃなければ絶対奢ってもらおうとなんてしてないはずだ。意地でもお金を渡そうとするだろう。友人として嬉しい意味で容赦がない。金銭的にたまったもんじゃないけど。

露天の一つにカナヲ先輩を見つけて、俺はその場を離れた。今の炭治郎は落ち着いているし、ヒツメに酷いことは言わないだろう。
…2人で話したい事もあるだろうし。

「カナヲ先輩、お茶一本くれませんか?」

カナヲ先輩の露店は飲み物を売っていて、お茶以外にも色々と揃えてあった。

「久しぶりだね。」

カナヲ先輩がお茶を渡そうとしてくるけど、俺はお金だけ渡してやんわりと断る。ペットボトルを差し出したまま、カナヲ先輩は首を傾げた。

「それ、先輩の分のお茶です。ちょっと話しません?」

ああ、と納得したようにカナヲ先輩は微笑むと一緒に店番をしていた女生徒に声をかけて露店の外へ出てきてくれた。近くのベンチに並んで座り、とりあえず一息つく。

「逃げてきたの?」

「っ…俺がそんな意気地なしに見えます?」

図星だ。カナヲ先輩はよく見ているし感づく。強がって見せる意味など無いのは分かっているけど、認めてしまうのも癪だ。

「2人きりにさせてあげたいなんて優しいんだね。」

「まぁ、俺がいない方が話せる事もあるでしょうしね。」

カナヲ先輩は声に出さず、含み笑いを浮かべている。

「炭治郎、変わりましたよ。」

「…そうみたいだね。」

炭治郎は変わった。先週の俺との言い合いになったことがきっかけかどうかは分からないけど、これは良い方向へと進んでいるんじゃないかと思う。

「本当に良かったの?」

「何がですか?」

「好きなんでしょ、ヒツメちゃんのこと。」

まぁ、隠しても仕方がない。どうせお見通しなのだろう。前回話したときも今も、口にこそ出してはいないけど炭治郎にこんなに必死なのはヒツメ絡みだからということは既にバレている。

「俺が必死になったところで、ヒツメが振り向いてくれるとは限らないですよ…。」

「…そうね。」

「俺、自分が嫌になってしまって。炭治郎に偉そうに言っておきながら、自分も結局同じようなことしてる。」

傷ついてるヒツメに付き合おうと言ってしまったこと。炭治郎との関係の修復だってヒツメによく思われたい一心でやっていること。

汚いことをしていると自覚して自分が嫌になる。
炭治郎は家族を失ったと言ったあの日から、自分の本当の気持ちを隠す事をやめた。俺は、そんな炭治郎を羨ましいと思ってしまった。
俺は自分の気持ちを曝け出すことが出来ない。ヒツメに嫌われてしまうかもしれないから。

「同じような事だけど、同じじゃないと思うよ。我妻君には愛があって、炭治郎には愛がない。」

「でも、結果的にヒツメが欲しい事には変わりないですよ。」

カナヲ先輩は表情を変えず、俺の質問にどう答えようかと考えている。俺の拗ねた質問をカナヲ先輩はどう返してくるのか。

「じゃあヒツメちゃんじゃなくて、炭治郎と我妻君で考えてみたら?」

「…どういうことですか?」

予想していなかった返答に首を捻る。

「炭治郎はきっと自分の独占欲の為なら、我妻君にも嫌われても良いと思ってると思うよ。我妻君はどう思う?」

ヒツメのことを抜きにして、炭治郎を助けたいかどうか、という事を聞いているのだろうか。そんなの、決まってる。

「俺は嫌です。ヒツメも炭治郎も、大事な友達だから。」

「あなたは、本当に優しいんだね。炭治郎よりも、ずっと。」

カナヲ先輩は前に、皆は炭治郎を優しい人というけれど私はそうは思わないと言っていた。だとしても、炭治郎よりも俺の方が優しい訳がないと思う。

「我妻君は友達思いの優しい人だよ。」

その言葉に、胸が熱くなって涙が溢れそうになる。炭治郎が羨ましいのは、自分の欲しいものだけを真っ直ぐに欲しがれるから。俺はヒツメに嫌われたくないし、2人を失いたくない。こんな卑怯で臆病な自分を、カナヲ先輩は優しい人だと言ってくれた。

「すいません、もう戻りますね。」

このまま話していると色々と止まらなくなりそうな気がする。ベンチから腰を上げて、カナヲ先輩と一緒に露店へと戻る。財布から小銭を出して、ジュースを2本指差した。カナヲ先輩の代わりに店番をしていた女生徒が、ペットボトル2本とお釣りを手渡してくれた。それを受け取り、小走りでヒツメと炭治郎のところへ戻ろうとしたとき、カナヲ先輩に呼び止められた。

「炭治郎のこと、よろしくね。」

「……?」

第三者から見れば、普通なやりとり。だけど何故か違和感を感じて戸惑いながらも、はい、とだけ返事をする。カナヲ先輩はまだ炭治郎が気がかりなのかもしれない。


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