長編【蛍石は鈍く耀う】
□(3)永遠の絆
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「善逸が、間違ってるって言ったんだ。」
え、俺の話してんの?炭治郎の言葉に思わず足が止まる。内容は文化祭の準備の事だろうか。
「炭治郎は優しいよ。それは頼られたいからだけじゃなくて、炭治郎自身がそうしたいって思ってる部分もあると思うよ。」
ヒツメは俺が思ってるより、炭治郎の事を理解しているらしい。俺が手を貸す必要なんてほとんどなかったのかもしれない。
実際、辛かったら頼っていいと言ったけどヒツメが俺の助けを必要としたことなんて一度しかない。その一回だって、男女の力の差で抗えないと判断したからだ。
ヒツメは本当にどうしようもない時は他人に助けを求められるし、自分でなんとかできるなら他人を頼ったりしない。炭治郎とは違う意味で、真っ直ぐで真面目なんだ。
「…俺は優しくない。」
「そんなこと、」
「家族を失ったとき、俺は悲しかった。本当に悲しかったんだ。でも、」
炭治郎がヒツメに何を言おうとしているか分かった俺は大きな声でわざと遮った。流石に今、炭治郎の気持ちをヒツメに全部言ってしまうのは良くないと思う。まだ1週間しか経ってないのに。
「お待たせ!カナヲ先輩からジュースもらっちゃった!」
ジュースを買っておいて良かった。炭治郎とヒツメの会話はジュースの話に移り、俺もそれに自然と混ざるようにして話す。
炭治郎が言いかけた言葉。
『嬉しかった。』
恐らくそのあたりだと思う。家族を失った炭治郎は本当に苦しかったし悲しかったと思う。だけど俺はあの時確かに、嬉しいという音も一緒に聞いた。それが何故か、俺はなんとなく分かり始めていた。
今まで隠してきた感情を、曝け出していいんだと。
今ならこの感情を、ヒツメが受け止めてくれると。
それが炭治郎には嬉しかったんだと思う。だけどカナヲ先輩から聞いた話や、炭治郎と俺との会話を知らないヒツメが聞けば驚くに決まってる。ヒツメからしてみれば、家族を失って嬉しかった、なんてとんでもない思考へと結びついてしまうかもしれない。
俺は自分で思っているよりも、他人に世話を焼くのが好きらしい。じゃないとカナヲ先輩にも友達思いのいい人なんて言われたりしないだろう。
俺が一目惚れした笑顔で炭治郎と話すヒツメ。
もしもヒツメが俺の告白を断ったとしても。
俺はヒツメの力になりたい、と変わらずに思うだろう。
そしてそれは炭治郎にも。
俺は友達思いのいい人、なのだから。