長編【蛍石は鈍く耀う】

□(1)まもりたいもの
1ページ/3ページ



頼られるのは好きだ。
自分は必要とされていると感じる事が出来るし、感謝される事は居心地が良いから。

興味の無い人間に好かれるのは嫌いだ。
煩わしい。この一言に尽きる。俺に興味があるのならまだしも、俺と繋がりを持つ事をステータスか何かと思っているんじゃないかと思う。

俺を取り巻く環境は好きだ。
こんな俺を受け入れてくれる人達。俺と言う人間像が確立されていて、苦しめられることもない。家族や親友は俺にとって、大事なものであり、失いたくないものだ。

自分が嫌いだ。
自分が何の為に生きているのか、自分の存在理由も分からなくなった、あの日。
今まで築き上げてきたものが、簡単に壊れたとき、俺はどうしようもなく卑怯な人間だと自覚してしまった。

本当の気持ちを曝け出せる機会がきたんだ。
家族を失った悲しみの裏に、そんな期待をしてしまったんだ。



「俺だけ生き残ったって、意味ない!」

「っ…そんな事ない!!」

もう何もかもがどうでも良くなって。自分だけが生きていても何の意味もない。どうせなら連れて行ってくれたほうが何倍も良かったとさえ思った。
様子を見にきてくれたヒツメに、感情をぶつけた。普段の自分を取り繕う事も煩わしいほど、俺は自分を責めていた。

「私は、炭治郎が生きてて良かったって思う。」

そんな陳腐でありふれた言葉に、俺は救われた。生き残る意味なんて無い、と言われれば誰でも言ってしまいそうな安っぽい言葉。そんな言葉でさえ、俺は縋り付いてしまった。

俺はヒツメが欲しかったんじゃない。
俺の欲しい言葉を欲しい時にかけてくれる、ヒツメが欲しかった。
極論、ヒツメじゃなくても良かったのかもしれない。

なんて卑怯で自己中心的な人間なんだろう。

俺はヒツメが欲しくて堪らなくなっていた。

ヒツメの中に居るのは俺だけでいい。それが恐怖の対象であっても構わない。ヒツメの行動の全てに俺の可能性を感じて欲しい。
それから俺の行動によって、ヒツメは俺の事ばかり気にするようになっていった。


次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ