君が笑えば
自分に当てがわれた蝶屋敷の一室で、一人深いため息を吐く。最近の任務において自分のミスが目立つ。気を付けてはいるものの、鬼の攻撃に反応するのが遅れたり、他の隊士と連携が取れなかったりすることが多い。
こうなってくると、どんどん深みに嵌っているような気がする。
「ヒツメちゃん!!」
どたばたと足音を立てながら善逸がこの部屋に向かってくる。障子を勢いよく開け放つと、すぐに膝をついて私の手を握ってくる。
「なに、どうしたの。」
「明日、合同で任務だって!2人で!!」
相当嬉しいらしく、握った手を離してくれない。いつも行きたくないと泣く善逸とは正反対に、今回は私の方が行きたくないと駄々を捏ねたいくらいだ。
「分かった、分かったから!」
「じゃあ明日門のところで待ってるから!」
女の子が好きなのは分かっていたけど、こんな私と一緒でも喜ぶなんて。
「荷物持ってあげよっか?」
「大丈夫。っていうか、善逸の方が荷物多くない?」
今日の任務の内容を鎹鴉に聞いたところ、そんなに荷物が必要でもなさそうだった。任務自体も1日で終わりそうだし、場所も遠くない。何をそんなに持ってくるものがあるんだろう。
「ヒツメちゃんといっぱい遊びたくてさ!ほら、花札とか、双六とか…。」
「え、遊び道具持ってきたの…?」
子供じゃあるまいし冗談だろうと思いながら善逸の方を見ると嬉しそうに花札の入れ物を見せてきた。命がかかってる任務なのに、何を考えてるんだこの人は。
「そ、そんな顔しないでよぉ!!」
善逸が慌てて花札を引っ込めて、騒ぎ立てる。いつもなら、冗談の一つくらいは言ってあげられるけど、今はそんな余裕がない。任務に集中しないと、また何かミスをする気がしてならない。
「じゃあお話しよ!」
さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、今度は嬉しそうに笑いかけてくる。私はそれどころじゃない。ほっといてくれと直接言おう。
「ごめん、善逸。私、任務に集中…」
「そんなに気を張らなくても大丈夫だからさ。」
言おうとした言葉を遮るように善逸は言った。
「俺がついてるよ!弱いけど!!」
それって自信満々で言う言葉じゃないと思うけど。善逸は目を輝かせながら、続ける。
「俺と楽しい話しようよ!」
もしかして、花札も私を元気付ける為に…?集中したい、と蔑ろにしたことを心の中で申し訳なく思った。
「わかった。じゃあ善逸から話してよ。」
「えー、いきなり?」
「自分で言い出したんでしょ。ほら、早く。」
「酷くない?!じゃあこの前俺が振られた話を…。」
「それ本当に楽しい話なの??」
私が笑うと、善逸もつられて嬉しそうに笑った。