ずるい嘘つき
「ごめん、待った?!」
はぁ、と息を吐きながら両膝に手をつく。待ち合わせの時間ぴったりなのだけど、それよりも早めに着いて待つのが炭治郎なのだ。
「俺も今来たところだ。」
ああ、もう。炭治郎はいつもそう言うけど、絶対嘘だ。私が早めに着いた時だって炭治郎は既に待っているんだから。炭治郎は鼻が利くから私がつく嘘なんて通用しない。なのに自分は堂々とついちゃうんだから。
「混んじゃう前に行こ。」
炭治郎の手を取り、歩き出す。今日は久しぶりのデートだ。楽しみで昨日の夜から眠れなかった。
「その前にちょっと待ってくれ。」
ん、と振り返ると人好きのする笑顔が近づいてくる。突然のことにびっくりして体が固まる。
「今日も可愛いな。」
「な、何言ってんの!!」
「これは本当の事だぞ。」
私が内心、炭治郎だけ嘘をつくなんてずるい、と思ったことがバレていたようだった。炭治郎のつく嘘は後ろめたいことじゃなくて、私のことをからかうずるい嘘ばかりだ。
「どうしていつもそう言うことばっかり言うの!こっちが恥ずかしいよ!」
「なんだ、照れてるのか?」
私が慌てふためくと炭治郎はすごく嬉しそうにする。私の反応が可愛いから、という理由で隙あらばこういうことを口にする。
正直言うと嬉しいんだけど、いくつ心臓があっても持たない。
「…照れてない。」
「嘘ついても俺には分かるぞ。それとも、匂いを嗅いで欲しいのか?」
再び近づいてくる炭治郎に、ゆっくりと後退りながら距離を取る。
ここは公の場だよ、と言っても知らん振りをされるのは前に試したから分かる。
「あ、こら!」
踵を返して逃げるけど、難なく炭治郎に捕まった。せっかくのデートなのに、このままだと予定が潰れてしまう。今日はどうしても見たい映画があるのに!
「仕方ないな、早く行くぞ。」
思わず匂いを嗅がれるんじゃないかと身構えた私は拍子抜けした。前を歩く炭治郎が笑いを堪えた表情でこちらを振り返った。
「残念そうな匂いがするぞ。」
「…違う!っていうか、嗅がないで!」
「それは無理なお願いだな。」
くつくつと笑う炭治郎に優しく手を引かれ、映画館へと向かった。