『残念ながらべた惚れ』(アレルヤ×ニール)

 壊れ物をあつかう手つきで誰かが肩に触れるのを、気に入りのソファの背もたれに頭をあずけたロックオン=ストラトスは夢うつつのまま感じていた。
あたたかな掌は伸ばしたままの亜麻色を撫でると、読み掛けのまま放ってあった本を片付けてブランケットを広げる。
「根を詰めすぎだ、って言ったでしょう」
そぅっと吐き出されたため息と苦笑混じりのささやきが、肩を包むケットと共にロックオンの心臓を丸くくるみこむ。
(アレルヤ)
唇は動かさないまま、心の中で呼びかける。
聞こえているはずがないというのに、アレルヤは膝を折り、ロックオンの声に答えるタイミングで羽のようなくちづけを頬に落とした。
普段なら照れてつい抵抗してしまうが、今は眠気のせいか、素直に心地良さを受け止められる。
「まだこんなに明るいのに、眩しくないのかい?」
アレルヤが見上げている窓越しの晴れた空を、ロックオンも瞼の裏に描いた。
地上でしか見られないやわらかな日差しがゆっくりと傾いて、部屋中をあざやかな金色に染め上げる。
光のいたずらに、アレルヤは息を呑んだようだった。
「すごい、ロックオン。きれいだ……」
キスを落とす唇からこぼれる声が、ロックオンの鼓膜を震わせる。
いとしい、いとしい声。
普段は無意識に背伸びしているのだろう、こうしてありのままに感情をあらわすアレルヤの声を、ロックオンはずいぶん久しぶりに聞いたと思った。
やさしい指先、温かいくちびる。
記憶の中にいるアレルヤは、いつだってやわらかく微笑んで、嬉しげにロックオンを抱きしめる。
今すぐにでも起き上がって、くしゃくしゃの笑顔に触れたいのだが、ロックオンの瞼はどうしても睡魔を引きはがせない。
しばらくソファの傍らに立ち尽くしていたアレルヤが、
「僕も一緒に寝ていいかな」
風が吹けばかき消されてしまうほど小さく呟いて、ロックオンの座る隣に腰を下ろした。
ロックオンが投げ出したままの手に手を重ね、肩口に頬を寄せ、ふんわりと満足そうに笑う。
「おやすみなさい。大好きだよ、ロックオン……ニール」
そうして三秒数えないうちに、アレルヤは健やかな寝息を立てはじめた。
(変な奴だな、ったく……)
眠りたいなら寝室に行くか、寝心地の良いクッションでも用意すればいいのに。
けれど同時に、離れたくないと訴える恋人のやすらかな呼吸が、ロックオンをどこまでも安心させるのだ。
ずるずると眠りの淵に引き込まれていくのを感じながら、ロックオンはアレルヤに寄り添い、ブランケットを分けてやった。
残念なくらいに惚れてしまっている自分に勝ち目などないのだろうと、満たされた気分で考えながら、ロックオンの意識ははちみつのように甘く溶けていく。
残念なことに、上手に愛の言葉を告げるには雰囲気も勇気も足りないけれど。
「……おやすみ、アレルヤ」
今だけはこのまま日が暮れるまで、二人で同じ夢を。

(end)


この度は本当にありがとうございました。

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