兄は知らない。
僕の世界は、とても狭いことを。



「ライル。お前、また俺の振りして、クラスメイトの誘い断っただろ。」

ノックなしに、ライルの部屋に駆け込んで来たニールに、ライルはそう言えばそんなことした気がすると思い出した。
顔も思い出せない、その少女は、ニールと同じクラスの子だったはずだ。ニールが好きだと友達と話をしているのを、ライルは偶然聞いてしまった。その時はそれだけだったのに。
今度、兄がその子と出かけると聞いて、無性に許せなくなった。
兄は、みんなに優しい。だから、ニールは彼女が好きで出かけるわけじゃないと、そう知っていても。ライルには我慢が出来なかった。
邪魔しようと思い、ニールの振りをして彼女に話し掛けた。もし、彼女がニールとライルを見分けるようなら、その時は。
そう思って居たのに、彼女は見分けるどころか、まんまと騙された。

「あの子は、よくないよ。ニール。」

「お前なぁ、何を根拠に………。それと、ライル。ニールじゃない、兄さんって呼べって言っただろ。」

学校に入学してから、ニールは他の兄弟達を見習って、ライルに兄と呼ぶように言うようになった。
兄弟と言う括りは、この世で一番近くて、でもライルには一番残酷なものだ。
ライルが、ニールを大切だと好きだと気が付いたのは、ジュニアハイスクールに入ってすぐの事だった。
兄に近づくすべての人間が許せなくて、まさかこんなにどろどろとした感情が恋だとは思ってもみなかった。

「はいはい、兄さん。そんなことよりも、部屋の暖房が壊れちゃったんだ。今日は兄さんの部屋で寝てもいいよね。」

勝手に人の誘いを断った事を、そんなことと片付けたライルに、ニールが一瞬呆れたような顔をするが、すぐに小さくため息を吐いた。

「次からは、止めるんだぞ、ライル。」

「分かったよ、兄さん。」

きっと兄は、それが口だけの約束だと知っている。ライルよりも、ずっと察しが良い兄のことだ。
でも、ライルは知っていた。何度約束を破っても、兄がライルを嫌いになることなんてないことを。

「枕は、自分の持って来いよ。」

もっと怒ったって、放っておいてもいいのに。いつだって兄は、ライルに優しい。
それが、兄弟だからだというのなら、本当に皮肉な事だとライルは心の中でそっと笑う。

「ねぇ、兄さん。今日は手繋いで寝てもいい?」

「?」

なんだ、急にと言うように、きょとんとした表情をするニールに、ライルがいいだろっともう一度繰り返す。そうすれば、断らないことも知っている。

「構わないけど。急に変な事言って………熱でもあるのか?」

心配そうに、ライルの額に伸ばされたニールの手が額に届く前に、ライルはぎゅっとその手を握り締める。

「熱なんかないよ、兄さん。」

早く兄さんの部屋で暖まろうよと、ライルが促すと今だ戸惑っているようだったが、ニールはすぐに頷いた。

自分の部屋の灯りを消しながら、ライルはそっとエアコンに視線をやる。ネジを一本抜いて壊したそれ。後で、母から怒られるだろう。
でも、ライルは構わなかった。

「(大好きだよ、兄さん。)」

そっと心の中で呟くと、ライルは、ぎゅっとニールの手を握り締めた。



僕の世界は、とても狭く。
兄しか存在しない、その世界が堪らなく愛しかった。



君に触れたがる手
20081201
ライニル






*14歳ライニルでした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました∨
どんな世界でも、ニールとライルが幸せでありますように∨
猫野


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