連載2

□痛みの所在
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「私がな、居たんだ。夢の中で私は私を見ていた。私は、息絶えたあの人を胸に抱えて、泣いていた。絶望にうちひしがれ、語りかけてくる哀しみと憎しみに耳を傾けながら、叫んでいた。それをずっと横で見ていたんだ。……どうしてだろう? 私にはその時の感情なんて覚えていないのに、その哀しみなんて判らないのに、胸が痛むんだ」
「……」
「この痛みは哀しいから? それとも思い出せとあの子が叫んでいるから? 目が覚めてからもずっと胸が軋んでいる。あの子の悲鳴が耳にこびりついて離れないんだ」

はらはらと再び涙を溢すサラサは、その感情を持て余しているかのようだった。否、振り回されていた。
喜びも悲しみも苦しみも、過去の記憶に関する感情を何ひとつ覚えていないサラサにとって、降って湧いた嘗ての記憶とそれに付随するものは彼女を苛めるもののひとつなのだろう。とかくサラサは、今の自分と昔の自分を別の個として扱っているのだから。
サラサは痛みを耐えるかのように胸元の服を握りしめた。

「この痛みは誰のもの? さっきセフィロスが拭ってくれた涙は誰のもの? あの子? それとも私? でも私は何も覚えていない。あの人を愛していたという感情すら――何ひとつ覚えていやしないのに」
「サラサ、」
「思い出す努力すらしない私は薄情な人間なんだろうな……」
「努力した所で思い出せるものでもないだろう。無理して思い出すものでもない。記憶があるだけでも充分だろう?」
「それでも、私は――」
「何より辛いのは忘れてしまったことに気付かないことだ。失ったものに気付けないことだ。違うか?」
「……ッ」
「お前は無いものに気付いた。なら、覚えておけばいい。」
「覚えて、おく」
「まぁ俺にも良く判らないが」
「……その一言は要らなかったよセフィロス。そうしたら感動出来たのに」
「む、」
「でもすっきりしたかも」
「そうか?」
「うん。この痛みが誰のものか判らないけど――私は覚えていようと思う。失った人。失った感情があること。この胸の痛みも。そしていつか全てを思い出した時、私はこの痛みを笑って受け入れることが出来ると思う。きっと、自分のものとして」
「そうか。ならそろそろ戻るぞ」
「ああ。……ありがとうセフィロス」
「俺は何もしていないが」
「聞いてくれただけで感謝ものだよ。何か礼がしたい。何がいい?」
「……考えておく。構わないか?」
「ん」

二人の間を冷たい風が吹き抜ける。
小さく震えて肩を竦めたサラサの手を引いてセフィロスは歩き出した。

「セフィロス?」
「お前が哀しい歌を歌うから焚火の炎が小さく萎んだ。帰るまでには元に戻っているといいが」
「は?」
「……気にするな」



end

song by Carmina Burana






セフィロスが偽者な気がしてならない罠\(^O^)/

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