連載2

□傷痕に接吻
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「ん……ぅ……っ」

浅い微睡みの中にいたサラサは背中を撫でるくすぐったい感覚に目を覚ました。その感覚は肩甲骨のあたりから、腰の辺りまで肌の上をすぅ…と撫でては往復を繰り返す。この調子では眠れないと、サラサは寝返りをうって相手の意味のない行動を阻止することにした。

「もう……寝れないじゃない」
「フ……癖になってな」

非難の声に男は意地の悪い笑みを浮かべて、顔にかかる銀色の髪をかきあげた。その仕草が妙に様になっていて、気だるげな表情と相まって実に妖艶である。
彼に好意を寄せているものが見れば、否、たとえ好意なんぞ抱いていなくとも、扇情的でどきりとさせられるのだが、情事後の疲労と眠気がピークに達しているサラサは、彼の艶やかな美貌を前にしてもぴくりとも心を揺らさなかった。

「明日任務なんだから寝かせてよ」
「俺は休みだ」
「だからなに」
「最後まで付き合え」
「ふざけんなこの絶倫」
「人のことを言えるのか淫乱」
「黙れその口縫い付けてやろうか」
「出来るものならな」

しれっとそんなことを言われれば、意地でもやってやろうと気合いに火が灯る。
針と糸――簡単に引きちぎれないテグスがいいか――を探すべく起き上がったサラサは、けれど一瞬のうちにベッドへと縫い付けられ、退路を絶たれるように男に覆い被さられた。

「なに?」
「この部屋は誰の部屋だ?」
「セフィロスの部屋でしょ」
「そうだ。なら俺の部屋に針と糸があると思うか?」
「…………ない。そういえばここは冷蔵庫すらも空っぽなセフィロスの部屋だった……!」

御名答、とでも言いたげにくく、と喉奥で嗤った男――セフィロスはサラサの首筋に顔を埋めた。

「ッ……ひっ……!」

生暖かい舌が肌の上を這っていく。首筋から鎖骨にかけてをねっとりと舐められた。下腹部に直結するような快楽ではないが、それでも背筋からぞわぞわとしたものが這い上がってくる。
無理矢理快楽を引き出すつもりなのだと男の意図に気づいたサラサは震える手でセフィロスの身体を押し返す。しかし完成された男の身体を、たとえサラサが戦闘職種についていようとも力の差は歴然で、押し返すのは難しかった。

「こんにゃ、ろ……!」
「クク、遊びのつもりか?」

ニィ、と口端を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべた男はおもむろに手を伸ばし、サラサの身体をぐるりと反転させた。枕に顔面を押し付けることになったサラサは鼻をぶつけて僅かに呻く。

「な、にっ……!? ひぁっ……!」
「良い声で啼く」

ぬるりとした感触が背中をなぞる。それがセフィロスの舌だと気付いた瞬間、ぞわぞわとした感覚が倍増した気がした。

「ひぅっ……」
「感じてるのか?」
「っ……! 気持ち悪いの! なんなわけ一体!?」
「この傷痕……中々気に入ってな」
「はぁ?」

トントン、と指先でなぞられたのはサラサの背中にある刀傷だった。
サラサの背中には右の肩甲骨から腰にかけて斜めに傷痕がある。肉が盛り上がり皮膚がひきつった生々しい無惨なその痕はサラサがこの星に来る前に恋人を庇って出来たものだった。

「酔狂な。男って普通、女に傷があるの厭うもんじゃないの?」
「俺は気にしないが。それにこの傷痕――お前の元夫は知らないのだろう?」
「そりゃあ、ね。その前に、死んだから」
「つまり俺だけが知っている。そうだろう?」
「うん、まぁ、そうなるね」
「ふ……」
「……何優越感に浸ってるの」
「いい響きじゃないか。お前の元夫が知らない部分を俺だけが知っている」
「だから気に入っている、と?」
「まあな」
「ふぅん」

この男にしてはなんとも単純な理由だと、サラサは適当に頷いた。しかしふとその脳裏を掠めた疑問に首を傾げた。
まさかとは思う。だがもしかして。
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