連載2

□想いは柩に詰め込んで
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「な、アンジール」
「ああそうだな。俺たちだけの秘密だ」

不機嫌そうに剥れた男にアンジールは喉奥で小さく笑う。益々機嫌が急降下した男はとても見物だった。同じようなことをサラサも思ったのだろう。ふふ、と小さく笑ったサラサは大輪の花が綻ぶような笑顔を浮かべた。

(ああ惜しい)

どうせならその笑顔も自分だけの秘密にしておきたかった。
そう思ったのはどうやらアンジールだけではないようで。牽制するようなセフィロスの鋭い視線から逃れるようにそっと双眸を伏せた。

(判ってるさ。彼女は俺のものにならないなんて)

――気付きたくはなかったけれど。

サラサが立っていた窓際からは神羅のヘリポートが良く見える。彼女はきっとセフィロスの帰りを待っていたのだろう。そしてセフィロスも窓際にいるサラサに気付いたから通る必要のないこの廊下を使ったに違いない。

「アンジール?」
「なんだ?」
「今日は随分とボーっとしてる。腹でも減ったか?」
「、……そうかもしれないな」
「じゃあご飯食べに行こう! な、アンジール?」
「ああ。構わないが」
「やった!」
「それも俺は除け者か?」
「あ、はは……。いや、セフィロス任務は?」
「もう終わった。後は書類提出だけだ」
「じゃあジェネシスも誘って皆で行こう。構わないよな? アンジール、セフィロス」
「ああそうだな。それがいい」
「俺も構わない」
「よし決定! 私もお腹減った―! 行こう!」

背を押され促されるまま歩き出す。
隣に並んだサラサはコートから携帯を取り出して電話をかけていた。
その隣にはいつの間に距離を詰めたのかセフィロスが並んで歩いていた。

「ジェネシスも来るって!」
「どこで待ち合わせたんだ?」
「ビルの前に30分後。ねぇ何食べたい?」
「俺はお前の手料理が食いたい」
「はい却下! 次!」
「中華なんていいんじゃないか? 大通りに新しい店がオープンしただろう。中々美味いらしいぞ」
「え、うそ。いつオープンしたの?」
「確か一週間前だな。サラサが任務に行ってる時だ。それがどうかしたのか?」
「開店初日に行くの狙ってたんだ。初日は10%引だったし」
「詳しいな」
「割引券ついたチラシ貰ったんだ。せっかくとっといたのに」
「無駄になったな」
「残念だったな」
「ちぇっ。まぁでもいいか。こうしてみんなで食べにいけるんだし」
「そうだな」

楽しそうに歩くサラサにアンジールはそっと息を溢した。
いつかこの関係が壊れる時がくるのだろう。それは例えば彼女が『皆』ではなく『一人』を選んだ時に。
誰かの物になどならないで欲しい。
『皆』のものであって欲しい。
出来るものならあの絵画の中の彼女の隣に誰かが立つことなどないように。
それは例え自分自身であっても。

「楽しみだな、アンジール」
「、ああ。たくさん食べろよ」

蓋をしよう。この想いには。
小さく響いた痛みにアンジールは気付かないふりをした。





end
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