連載2

□茫洋の嘆は深海の底へ
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「気付いたか?」

心地よい低音のテノールの声が耳を刺激する。

「セフィ、ロス……?」
「大丈夫か? サラサ」
「アンジ、ル……?」
「良かった。大丈夫そうだな」

光に慣れると二人の姿が目に入った。
無表情で覗き込むセフィロスと心配そうな表情を浮かべたアンジールの姿だ。
どうしてここに彼らがいるのか。記憶を辿ってもさっぱり思いだせなかった。

「なんで、ここに?」
「レギオンに感謝するんだな。お前を助ける為に俺達を呼んだのはそいつだ」
「……え?」

サラサの耳元でオコジョはきゅう、とか細く鳴いた。小さな舌でサラサの頬をペロリと舐めその存在を知らせる。そっと手を伸ばし指先で触れるとレギオンは指先にすりすりと体を擦り寄せてくる。白い毛並みはしっとりと濡れていた。

「二人も?」
「俺は偶然だ。セフィロスの部屋に書類を届けに行ってたんだ」
「私、どうして……?」
「風呂で溺れていた。どこか辛い所はないか?」
「……顔、熱い、かも」
「確かに……。待ってろ。今タオルを水で濡らしてくる。喉も渇いただろう」
「んー」

ひんやりとして気持ちよかったアンジールの手が声と共に離れ名残惜しさを感じサラサは手を伸ばすも空をきる。

「これで我慢しろ」
「ん……、」

言下、額に置かれたのはセフィロスの手だった。アンジールの手よりも冷たい手のひらだった。

「気持ち、いい―……」
「馬鹿が。怪我をしているのに風呂に入る奴がどこにいる」
「はは……」
「湯船の底に沈んでいるのを見た時は心臓が止まるかと思ったぞ」
「ごめん……」
「全くだ。壁に開いた穴の修理代はお前が持てよ」
「は……?」
「今、俺の寝室とお前の部屋のリビングは繋がっている。早急に直すように手配しろ」
「…、?」

何を言っているのか解らない。
頭が熱で魘されているからか。それともこの男の説明が足りないからか。

「それだと判らないだろうセフィロス。きちんと説明しないと。……サラサ。水持ってきたぞ。身体起こせるか?」
「う、ん。もう平気」

サラサはゆっくりと上半身を起こしソファーの背凭れに背を預けた。

「気をつけろよ」
「何が?」
「その、非常に言いづらいんだが、お前はいまバスタオル一枚だ」
「……ああ。そういうことか。分かった。すまないな、見たくもない裸なんぞ見せて」
「いや、俺はみてないぞ決して! 誓ってもいい」
「別に見ても怒りはしないが」
「お前は女なんだから少しは節度を弁えろ。男は狼なんだから常に警戒心を持ってだな」
「アンジール、説教はいらないよ」
「お前はサラサの母親か? アンジール」
「茶化すなセフィロス。お前も少しは気を使え。嫁入り前の女の躯を見るなんて」
「見ないでどうやって助けろというんだ?」
「限度というものがあるだろう、だいたい」
「まぁまぁ二人とも。もういいから」
「「元を辿ればお前が悪い」」
「うわ、」

言い争いになりそうな所を割って入れば双方の矛先が同じタイミングで向かってきてサラサは首を竦めた。
アンジールの説教は長いし、セフィロスの無言の重圧は精神的に辛いものがある。ジェネシスだったら基本放置なのに、とこの人選をサラサはひっそりと嘆いた。
コップを受け取ってサラサは口を湿らせる。喉が渇いているという自覚は無かったが水分を取ったことで欲求を覚え一気に飲み干した。

「で、何があった? まさか寝ていたわけではないだろうな?」
「ん? ああ、」

言葉を区切ったサラサはじぃっとセフィロスを見つめ、セフィロスは怪訝そうに目を細めた。

「何だ?」
「いや……何かを見た気がするんだ……。でも何を見たのか思い出せない」
「ついにボケたか?」
「煩い。酷い頭痛だったんだぞ」
「それで気を失ったのか」
「ああ」

何も思い出せなかった。何か、衝撃的なモノを見たような気がするのに。
それは忘れていけない何かだ。
頭にこびりついているのは銀。美しい銀色。それはセフィロスの髪のような色で――。

「痛った……!」
「どうした?」
「……いや、また頭痛が……、」

無理に思いだそうとして酷い頭痛に襲われたサラサは頭を抱えた。
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