連載2

□内緒噺をしようか
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openと看板の掛けられたドアを開けるとカランと涼やかな鈴の音が響く。サラサが入ったバーの店内はいつもながら独特な雰囲気で満たされていた。
暖かみのあるオレンジ色の灯り。調度品は全て落ち着きのあるシックなもので統一されており、店内に流れる穏やかなクラシックが時間を忘れさせてくれる。
こじんまりとしているが洒落た内装でもあり、そこかしこにサラサが好むようなポイントが散りばめられていた。
この店のマスターの出すカクテルも料理の味もみな一級で、サラサは暇があれば訪れるほど贔屓にしていた。

「いらっしゃいませ」

マスターの声に促され、いつものようにカウンター席に向かうとそこに見知った男の後ろ姿を見つけてサラサは思わず声をかけた。

「……ツォンか?」

酷く緩慢な動作で振り返った男はサラサの姿を認めると驚きに目を見張った。

「サラサ。どうしてここに?」
「どうしてって酒を飲みに来たに決まっているだろう? 隣いいか?」
「ああ」

ツォンは隣の席のイスを軽く引いてサラサを促した。
サラサはその席に座すると空いている隣の席に持っていた紙袋を置く。イスに置けない分は床へと置いた。

「随分な量だな」
「買えるうちに買っておかないとな。明日からまた長期任務でミッドガルを離れる」
「そうだったな。ルーファウス様を宜しく頼む」
「ああ」

サラサは明日からルーファウス・神羅の護衛として一ヶ月ほどの長期任務につくことになっていた。
非番である今日は明日への鋭気を養いつつ、サラサは買い物に明け暮れていたのだった。

「ご注文はお決まりですか?」
「いつものとエビのフリット。トマトとセロリのサラダ。今日のお勧めは?」
「白身魚のムニエルがございますが」
「ならそれで」
「かしこまりました」

少ししてサラサの目の前に紫色の液体の入ったカクテルグラスが差し出された。

「今夜の出会いに」

持ち上げたグラスをツォンの前に差し出す。サラサの意図が分かったのか、ツォンは水割りの入ったグラスを持つとカクテルグラスに僅かにぶつけた。
口に運んだカクテルは程よい酸味と甘さの調和が取れていて口辺りが良い。そっと微笑を落としたサラサに、ツォンもグラスを軽く揺らしてからぐいと仰いだ。

「ここにはよく来るのか?」
「ああ。暇があって冷蔵庫の中が空の時はな」
「自炊しないのか?」
「時間があればするが、食材があまると勿体無いだろう。冷蔵庫の中で腐らせると後始末が大変なんだ」
「そうか」
「ツォンは? ここには良く来るのか?」
「ボチボチ、だな」
「へぇ。いい店だよな。落ち着いてるし静かだし。何より人が少ない。酔って絡んでくる煩い輩がいなくていい」
「自分で見つけたのか?」
「いや、セフィロスに教えてもらったんだ。だからあいつと味の好みが似てて心底良かったと思ってるよ」
「セフィロス、か……」

運ばれてきた料理にさっそく手をつけ舌鼓を打つサラサを後目にツォンは、英雄の名を口の中で転がした。

「そういえば社内で気になる噂を聞いた」
「うん?」
「お前とセフィロスが付き合っているとか」
「ああそれ」

面白くなさそうに、或いは白けたようなぞんざいな口調でサラサはそうぼやいた。
今神羅カンパニーの内部で流れている噂のトップを飾っているのがツォンが言った『女帝と英雄は付き合っている』というものだった。サラサにとっては非常にどうでも良くくだらないものだったが神羅で働く女性――とりわけセフィロスファンの女性からしてみればたかが噂だと一蹴出来ない内容なのである。社内を歩けば次から次へと矢の如く飛んでくる嫉妬の視線にサラサはいい加減辟易していた。
サラサはカクテルを一気に飲み干して同じものを注文すると大きなため息をついた。

「どこから出た噂かタークスに調べてもらおうかな」
「タークスは今忙しい」
「判ってる。冗談さ」
「冗談には聞こえなかったがな。で、どうなんだ?」
「どうして気になる?」
「ルーファウス様がお前に好意を抱いているのは知っているだろう」
「勿論。何度となく口説かれているからな」
「それでもセフィロスと付き合うのか?」
「さぞお怒りになるだろうって?」
「……」
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