連載2

□内緒噺をしようか
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「私の心は私のものでルーファウスのものではないよ。口説かれるたびに私は何度も彼に言っている。誰と付き合おうと私の勝手だろう」
「サラサはあの方が嫌いなのか?」
「嫌いじゃないさ。だからと言って付き合おうとも結婚しようとも思わない。それに私はソルジャーだしな」
「身分の違いを気にしていると?」
「まさか。私が身分なんて気にするような人間に見えるか?」
「見えないな。では何故?」
「……お前はルーファウスに私の身辺調査でも命じられたか?」
「個人的に気になるだけだ」
「ふぅん。個人的に、ねぇ」

新しいグラスに口づけてサラサはペロリと赤い舌で唇を拭った。
噂が流れ出した辺りから不特定多数の人間に尾行されたり電話を盗聴されたりしている。
ソルジャーの、しかも1stであるサラサがそれに気付かないわけがない。締め上げて吐かせようかとも考えたがあえて好きなようにさせていた。
いちいち潰しても彼らは諦めないだろうし、締め上げてタークスだと吐かれた後に潰してしまえばソルジャーと彼らの対立は深まるばかりである。
こうして今、サラサが彼らを束ねる頭と腹の探り合いをするのはそんな尾行ごっこにも飽きが来たからだ。だからサラサは買い物帰りにここに来た。ツォンが先に来て待ち構えていると知っていたから。タークスのツォンだったらサラサが非番の夜をどう過ごすか、買い物に出た時点で把握していただろうから。

「サザンブライド、頂ける? あとライムエード」
「かしこまりました」
「お前は……」
「ん?」
「味わって飲むことを知らないのか」

一気飲みの要領で酒を流し込むサラサにツォンは呆れたようにそう言った。

「楽しい酒なら味わうさ」
「、そうか」

一言皮肉を言えばツォンは押し黙る。
彼の横でサラサはパクパクと早いペースで料理を胃に納めていった。
フリットとムニエルを平らげた後には4杯目となるライムエードを一気に飲み干してアイリッシュローズを頼む。運ばれてきたそれを今度は比較的ゆっくりと口にした。

「良く飲むな」
「飲んでもあまり酔わないからな。そういうお前はあまり飲んでいないようだな」
「これから社に戻る」
「へぇ、今はサボリ?」
「休憩中だ。……マスター、金はここに置いていく。釣りはいらない」

自分のテーブルに金を置き、背を向けて歩き出したツォンをサラサは呼び止めた。

「……最初の質問に答えてやろう」
「最初?」
「セフィロスと付き合っているかどうか。……答えは『否』だ」
「……そうか」

間があった後に返ってきたツォンの声にはどことなく安堵のようなものが含まれているような気がした。
サラサはツォンに背を向けたまま淡々と続きを語った。

「だが強ち間違いではない」
「どういう意味だ?」
「肉体関係はある」
「ッ……!?」
「先日プレジデント神羅の前で御前試合があったろ。決勝戦の最中に奴と賭けてな。『負けた奴は勝った奴のいう事を聞く』というやつだ。だが神羅は私に勝たせる気は更更無かったんだろう? 英雄の名が堕ちるからな。勝負は引き分けだが判定で負けた。だが負けは負けだ。納得出来ないがな。その晩のことだった。抱かせて欲しいと言われたのは。正直戸惑ったが」
「お前はそれを許したのか?」
「まぁな。無理強いはしないと言われたし、嫌なら断ってもいいと言われたが……」
「断らなかった、か」
「……断ろうとは思ったんだ……」
「ならば何故?」
「何でだろうな。私にもわからない。でもあの時……私は彼を『欲しい』と思った。抱かれてもいいって、そう思った。まぁ有り体に言えば欲情したんだ。あの男の熱を孕んだ瞳に当てられたのかもしれない」
「……まだ関係は続いてるのか?」
「ああ」
「それでも付き合ってはいないと?」
「多分な」
「随分と曖昧だな?」
「判らないんだ。セフィロスの心が。……興味本意なのか、性欲処理なのか。いや、だが興味本意なら一度きりで終わっているはずだ。……英雄も男だと判っただけでも儲けものか?」

後者は自分自身に言い聞かせるかのような、或いは自問自答を繰り返すような呟きだった。
ツォンは未だ独り言を呟くサラサの華奢な背を見て、何と言えばいいのか判らない感情に囚われる。しかしツォンは何も言わなかった。
否、言えなかった。
彼女の噂の真否を確かめるのがツォンに命じられた仕事であり、タークスである以上そこに個人の感情など必要ない。だからタークスとして仕入れた情報に、ツォンという個人の感情をサラサに投げ掛けられることなど出来やしないのだ。
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