連載2

□待ち人来たりて
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「どうした?」
「綺麗だなぁって」
「エアリスも可愛いよ。今は13だっけ。そうだなぁ。あと3、4年すればもっと綺麗になる。しかもとびっきりの」
「本当?」
「ほんとほんと。でもそうなったらなったで大変だな」
「どうして?」
「男どもが群がってくるだろう? 可愛いエアリスに悪い虫が寄ってくるな。それでもって恋人が出来たら、私は放っておかれてしまうかも」
「そんなことない! 絶対!」
「冗談だよ。可愛いなぁ」
「もう!」
「あはは、……と」

エアリスは頬を膨らませて唇を尖らせると、プルルル…、と音がして笑っていたサラサがコートから携帯を取り出した。画面を見て一瞬だけ真面目な顔つきになったのを見てエアリスはそっと双眸を伏せた。
ああ、行くのか。
携帯が鳴ればサラサはすぐに行ってしまう。
そんな思いから僅かに落胆の色を浮かべたエアリスだったがポンと頭に手を置かれて顔をあげた。
サラサは携帯をコートに戻しても何事もなかったかのように座ったままだった。

「どうした?」
「え?」
「疲れたか?」
「ッ……ううん。サラサ、お仕事いいの?」
「ああ……いいんだ」
「でも携帯が……」
「行って欲しいのか?」
「ッ、違うよ!」
「冗談だ。さっきのは定時報告だから関係ないんだ」
「じゃあ」
「ああ。今日は長く居れる」
「本当?」
「だからお付き合い下さいますか? レディ?」
「嬉しい! 喜んで!」
「恐悦至極、てね」

どちらともなくくすくすと笑いあう賑やかな声が教会に響いた。

「ねぇサラサ、歌って?」

初めて出会った時もサラサは心が洗われるようなとても綺麗な歌を歌っていた。 意味じくもこの花畑の前で。

「また聴きたいな」
「いいよ」

静かに歌い出したサラサの歌声に耳を傾ける。
今日の歌はどこか切ない悲しげな歌だったけれど老廃したこの教会にはぴったりだとエアリスは思った。
その日は夕暮れまでスラムの教会に歌声が響いていた。




end
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