連載2

□浮遊する狂気
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内側からみしりと軋む嫌な音が聞こえた。
あ、と思った次の瞬間にサラサはごぽりと鮮血を吐いていた。慌てて口に手をあてがったが血液の量は思いの他多く、手のひらには収まりきらなかった。

「サラサッ!?」

いつの間にか偵察から帰ってきたザックスに見られ悲鳴をあげられた。掛けよって膝をつく彼に大丈夫と言おうとして、それは更なる吐血に遮られる。
げほげほと咳き込む度に血が溢れ着ていたシャツを真っ赤に染めあげた。

「だい……じょ、ぶ、げほっ……!」
「大丈夫なもんか! そんなに血が……!」
「痛く、ない、から、平気」

発作が治まってサラサは長く息を吐き出した。ザックスに言った通り痛みはなかった。ただ息苦しさと喉にまとわりつく血の味が不快なだけで。それに何も吐血は今回だけの出来事ではない。ニブルヘイムを脱出してから積み重なる疲労に乗じて段々と頻度が多くなっている。片方の手だけではもう数えきれないくらい経験したために慣れてしまった。

「サラサ……」
「そう情けない声を出すな。クラウドに聞かせられないぞ」
「ッ……そうだな」

隣に座るぴくりとも動かない金髪の少年にサラサは苦笑を溢した。
血に濡れていない方の手で自らの方へと引き寄せ凭れ掛けさせる。少しでも人の体温に触れているほうがクラウドの病状も少しは回復するような気がする。そんな思いからサラサはことあるごとにクラウドを抱きしめるようになった。今の所成果は見られないがきっと良くなると信じて、ぐしゃぐしゃと頭を乱暴に撫でる。相変わらず反応はなかった。

「宝条のやつ! オレたちに一体何したんだよ!」
「さぁな。けれど私だけ別の実験をされたようだ。それは分かる」
「いや、そうだけどさぁ……そうじゃなくて!」
「次に会ったら半殺しにしてやろうな。クラウド」
「うう……ああ」
「お、同意した。任せろお前の分も殴ってやるからな、全力で」
「いや、違うだろ今のは」

ザックスのどこか冷静なツッコミにサラサはぷっと吹き出した。追われているのに緊張感のないことである。ザックスもそれが分かったのか釣られて笑いだした。
ひとしきり笑い終わった後サラサは真剣な顔でザックスに尋ねた。

「向こう、どうだった?」
「ああ。朝まで待ったほうがよさそうだ。今日はここで夜営だな」
「そうか……悪かったな」
「ん?」
「偵察。ひとりで行かせた」
「気にすんなって。まだ動けないんだろ。無理すんな」
「悪い……」
「謝るなよ。ほんと最近謝ってばっかだよな」
「すまない」
「ほらまた! 謝るの禁止にするぞ?」

茶化しながら、よっこらせ、と年寄り臭い掛け声と共にクラウドの隣に座ったザックスはクラウドの頭を撫でた。サラサにも負けない乱暴な手つきだけれど労りがある。

「オレは迷惑なんて思ってねーよ。クラウドもサラサも。みんな守るって決めたんだ」
「……私に守る価値がなくても?」
「関係ないね! オレが守りたいから守る。それだけだ」

ザックスの声にはブレはない。それにどれだけ救われているだろうとサラサは今更ながらに痛感する。

「強いな、お前は」

溢れ落ちた言葉はその表れだった。

「オレが? 誰も救えてねーのに?」
「何を知ってもお前の根本は揺るがない。それが強さの証だ。強くなった。ほんと……最初に会った時は良く喚く仔犬だと思っていたのに」
「仔犬って、アンジールと同じこというんだな」
「アンジールからは仔犬だと紹介されたからな」
「マジかよ!?」
「マジだ」
「アンジールのやつ! 一体何人に仔犬って言いふらしてたんだ!? オレは仔犬じゃね―!!」

憤慨して鼻を膨らませるザックスにサラサは小さく笑った。
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