連載2

□浮遊する狂気
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「いいな、お前は」
「何が?」
「明るくて、根が素直で。私たちに必要だったのはその陽気さかも知れなかったな」
「サラサ……」

もしザックスの陽気さが、明るさが、絶望を跳ね返せるだけの強さがみんなにあったのなら、こんな悲劇を辿らなくても良かったのではないだろうか。
ジェネシスは独りで闇を抱えることなく、アンジールは絶望を知ることもなく、セフィロスは狂気に堕ちることも無かっただろう。そして自分も――飲み込まれそうな怨恨と語り掛けてくる狂気の渦に葛藤しなくてすんだ。
最強のソルジャークラス1stとして、『真実』に立ち向かう勇気はあっても『真実』を受け止めるだけの強さだけは4人のうち誰ひとり持っていなかった。否、受け止めたからこその結果だろうか。
それぞれが自らの強さに誇りを持っていながら、その根底に足下を掬われるなんて誰が想像していただろう。真実を知ることで自らの世界が歪むなんて思ってもいなかった。

「でも明るいセフィロスってさ、考えただけで気持ち悪くないか?」
「そうか?」
「そうだぜ。いっつも仏頂面なのがセフィロスであって、常に笑顔ふりまいてるとか、絶対天変地異の前触れだ。雨の変わりに八刀一閃が降ってくるね」

想像してみて確かにそうかもしれないとサラサは思った。常時笑顔を張りつけているセフィロスは気持ち悪いかもしれない。主に腹の底が見えないと云った意味で。

「そうだな。それこそザックスの行動をセフィロスが取りはじめたら神羅は瓦解するな」
「なんだよそれ」
「仔犬みたいに落ち着きのなく慌てん坊でおっちょこちょい。例えば任務行く前にマテリア探してて焦って部屋に剣を置き忘れたりとか? テンション上がってアンジールに抱きついたりとか?」
「……それはヤバイかも。なんだか任務任せられなさそう……ってそれオレのことじゃん! なんでサラサが知ってるんだよ?」
「アンジールから聞いた」
「アンジールのやつ!! サラサに何話してるんだよ!」
「仔犬の成長過程を聞くのも先輩の役目さ。特にアンジールはお前のこと買ってたからな」
「なんだか釈然としないんだけど。すげー馬鹿にされてる気がする」
「そんなことないさ」
「そうかぁ?」
「そうだよ。……ザックス、ありがとうな」
「ん? 何が?」
「いや……。さぁもう寝よう。見張りは私がするから」
「いや、オレがするよ。サラサは先に寝ていいぜ?」
「お前のほうが疲れてるんだ。私はあまり動いてないし、そんなに眠くないから」
「ならお言葉に甘えて。……3時間たったら起こしてくれ」
「ああ」

ザックスが目を瞑った直後、すーと静かな寝息が聞こえてきた。
無理もないことだ。隠密行動は緊張を強いられ追っ手との戦闘は疲労ばかりを強いられる。それでなくとも実験のせいでか身体の動きが鈍くなっているというのに。
長話に付き合わせてしまったのを申し訳なく思う。ジェネシス達のことを話題に出したのも良くなかったかもしれない。ザックスが茶化してくれたおかげで幸いにも暗い雰囲気にならなずにすんだ。

「ありがとな、ザックス。……ごめんな」

その明るさに助けられている。けれど――。ザックスが明るい分、陰が濃くなるのも事実だ。
こうして寝静まった時、陰は更に濃くなって襲ってくる。
小さく呻くクラウドの頭をよしよしと優しく撫でながらサラサはぼんやりと空を見つめる。その瞳に僅かな狂気が孕んでいることなど誰も知る由は無かった。

(セフィロスと惹かれあうのは男と女としてじゃない。ジェノバである私とセフィロスのジェノバ細胞が惹かれているからだって……信じられるか。私はジェノバなんかじゃない。確かに世界は渡ったけど空から降ってきたわけじゃない。血液も遺伝子も同じ? そんなわけない。あるはずがない。この身体に流れる血は――……。私は違う。ジェノバじゃないジェノバじゃないジェノバじゃない! でも、ジェノバじゃない私は、私は――……私はなに?)




end
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