連載2

□早く目覚めて眠り姫
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窓辺から差し込む陽光が広い室内を温かく照す。換気の為にと開け放たれた窓からは心地よい風が流れこんできた。
ここはヒーリンの療養所のなかでも一番陽当たりが良く大きな部屋だった。

「今日は久々にいい天気だぞ、と」

日の光に照らされて輝く紅い髪を風に遊ばせながらレノは振り返ってそう言った。昨日までの嵐が嘘のように空は快晴だった。
けれどベッドの上で真新しい白いシーツに包まれて泥のように眠っている彼女はぴくりとも反応を見せなかった。もう慣れてしまったけれど少しだけ寂しい。
死んだとされている彼女をレノがみつけたのは約1年半前のことである。任務で各地を飛び回っている際、訪れたコスタ・デル・ソルの浜辺の波打ち際で倒れていた彼女を見つけたのだ。その時は本当に心臓が止まるかと思った。
それからずっと彼女は目覚めることなく眠り続けている。ルーファウスの命令のもとタークスの手によって厳重に守られ管理されたこの揺りかごのなかで。

「いい加減起きろよ、と。もう2年になるんだぞ」

メテオ災害から早いことにもう2年が経った。
壊滅した街の復興はまだまだで人々の暮らしは大変だ。けれど、それでも逞しく生きている。レノたちタークスもルーファウスの下で毎日奔走している。

「話したいことが沢山あるんだぞ、と」

英雄となったクラウド達のこと。変わりつつある世界のこと。神羅のこと。星痕症候群のこと。
目まぐるしいまでのこの2年を話したいし、聞きたい。7年前のニブルヘイムで一体何があったのかを。どうして記憶を無くしたのかを。
消化出来ずにいるにこの感情と想いにきちんと決着をつけられたなら、また2人で悪戯を仕掛けよう。
無邪気に笑えていたあの頃のように。
その時、コンコンと控え目なノックが聞こえた。レノが返事をする前にドアの向こうからルードが相変わらずの厳つい顔を見せた。

「時間だ」
「はいはい、と。……ったく北の大空洞とはオレはツイてねぇぞ、と」
「頑張れ」

相棒の抑揚のない声にため息をついてレノは眠るサラサの頬を撫でた。

「触ると社長に怒られるぞ」
「バレなきゃいいんだぞ、と。バレなきゃ」
「そうか」
「だからってお前は触るんじゃねーよ」
「む、」

頭を撫でようとしたルードの手を叩いてレノは踵を返した。

「行ってくるぞ、と。悪友」




眠り姫は眠る。
穏やかな揺りかごの中で。
変わり果てた世界を知らず、変わりゆく世界を知らず。
眠り姫は夢を見る。
再び目覚めるその時まで――……。





end
 

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