連載2

□君臨
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「ふはははははっ! 跪けっ! 地に這いつくばり許しを乞うがいいっ!!!」

イミテーションの軍勢を悉く吹き飛ばし蹴散らしていくのは召喚されたバハムート。その上に仁王立ちし、高笑いをするサラサ。その光景をなんと表現するべきか実に筆舌尽くしがたかった。
後方からその光景を見ていたクラウドは、彼女は元はこんな感じだったのかと、記憶がない頃の彼女しか知らない為に、なんとも言えない感情を抱いた。
なにせ神羅の女帝として最盛期を生きる彼女と、自身が知っている(謂わば未来というべきか?)記憶のない彼女では、戦闘の仕方も武器も口調も全て違うのだ。
そのギャップの凄まじいこと。
しかしこれも本来の彼女の一面なのだろう、とクラウドはあっさりと受け止めた。
何故なら元いた世界で、彼女は別れ際、自身がジェノバだと公言したからである。
ジェノバの特色を知っていれば彼女の好戦的な一面も別段おかしいものとは感じられなかった。

「あれは本当にサラサなのか……?」
「別人だ。きっと別人だ」
「同一人物なんてありえないっス」

しかしそう感じていたのはクラウドだけで、同じく後方で控えていたフリオニールにティーダやバッツ、ジタンも茫然とした表情でイミテーションが吹き飛ばされる光景を眺めていた。
抱いていた幻想が砕かれたらしい。
彼らは出会ってから今までふわふわと柔らかに笑うサラサしか知らないのだ。コスモスも彼女は女神だと――サラサ達には秘密だったが――教えてくれただけにコスモスのような女神像を抱いていたのだ。
しかし目の前で繰り広げられている光景――或いはそれを作り出しているサラサがその幻想を否定する。
確かに、戦闘の「せ」の字も知らないような人畜無害な少女が身の丈よりも長い大剣を二本も余裕で使いこなし、尚且つ巨大なバハムート(カダージュが召喚したバハムート震より尚大きい)をいとも簡単に召喚したなどと誰だって信じたくないだろう。バハムートを召喚する前はサラサ自身が先人切って飛び込んで行き、大群相手に掠り傷ひとつ追わないサラサの神業的なその手腕も、そうして今高笑いしながらバハムートで蹴散らしていく人が変わったようなサラサも。クラウドを含め全員が予想だにせず予期していなかったことだ。

「サラサ、素敵……」
「サラサお姉さんかっこいいね」

ただコスモスの軍勢で紅一点のティナと最年少のオニオンナイトだけはきらきらと目を輝かせサラサを見つめていた。純粋に賛辞の言葉を述べるのはこの二人だけである。

「うわ―。ありゃもうセフィロスしか止めらんねぇな―」
「ザックス……」

からからと笑いながら歩み寄ってきたザックスは朗らかにそう言った。

「ザックス、あれは本当にサラサなのか?」

フリオニールの問いにザックスは不思議そうな顔をして頷いた。まるで彼女以外誰がいるのだとでも言うように。

「あ―っはっはっは!!! 低能で愚かな雑魚どもがっ!!! 何人束になって掛かってこようとこの私に勝つなんざ100億万年早いわっ!!!! ひれ伏すがいいっ!!!!」
「テンション高いな―」
「それで済ませていいのかよ!?」
「いいんだって。サラサだし。あ、それ以上近寄るとサラサの攻撃範囲入るから止めとけよ、ティナ」
「分かった」
「え、味方にも襲ってくるの?」
「セフィロス曰くな。ハイになってリミッタ―外れたサラサは敵味方関係なしに純粋に強いヤツ求めるらしいぜ」
「どうしてサラサのリミッタ―が外れたのかな?」
「長時間戦うと外れるらしい。大抵はテンション上がりきる前に終わるから滅多に外れないんだけどな」
「なるほどね。今日のイミテーション、数だけは多かったから」
「あの状態のサラサはどうすれば戻るんだ?」
「敵を殲滅すれば終わるさ」
「他にはないのか? さっきセフィロスがどうとか言っていたが」
「……ああ。満足すれば終わる」
「満足?」
「そ。サラサは強い奴が好きなんだ。強い奴とは常に戦いたいし神経をすり減らして戦う命のやりとりがしたいんだ。その欲求が満たされれば自然と戻る。だから戦えばいい。けどサラサと戦って勝てるか?」
「無理だな」
「無理だろうな」
「無理っス」
「無理だね」
「無理無理」
「無理、かな」

全員の否定の声を受けてザックスはこくりと頷いた。
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