連載2

□道化師は嗤った
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「たっだいま――!!!」

一際明るいメゾソプラノの声がソルジャー司令室に響き、書類に目を通していたラザードは顔をあげる。
ひょっこりと顔を出したのは、妙齢の見目麗しい女性だった。
黙っていれば文句無しに美しいと称される彼女は花のように愛らしい笑顔を浮かべ、けれどぴょこぴょこと跳び跳ねながら司令室に現れた彼女は、落ち着きのない幼子ようだった。
立ち上がったラザードを見つけると親を見つけた子供のように脇目もふらずに抱きついてきた。

「ラザードラザード! たっだいま―!!」

ぐりぐりと額を擦りつけて庇護を得ようとする彼女の行動は本当に幼子のようで。

「お帰り」
「えへへ! ただいま! サラサはお仕事完了したよ―!! 誉めて誉めて!」
「うん。ご苦労さま。怪我はないかい?」
「ないよ! ないない! すごい? すごい!?」
「ああ。すごいね。よく頑張った」
「わ―い! ご褒美は? ご褒美!」

軽く頭を撫でるとサラサはにっこりと笑った。
たった今、人間を、モンスターを、殺してきたとは思えないほど無邪気な笑みだった。

「ああ……君たちはもういいよ。任務ご苦労様」
「はっ!」

ラザードは手を振ってサラサがいた任務先まで迎えに行かせたソルジャー3rd達を司令室から退室させる。
監視の目がなくなり、その気配が完全に無くなったのを感じてサラサはラザードから離れた。

「漸くいったか。あの間抜けども」

その刹那少女の纏う雰囲気が一変した。
先程までを「陽」と例えるなら今は「冷」だ。温かみなど何処にもない。無邪気な笑みは一転して、人を喰うような捕食者さえ伺わせる獰猛な笑みに。瞳に籠る色は底冷えのするような冷たさが宿り、声には嘲りすら含んでいる。口元には歪な笑みが浮かべられていて。
そこに先程までの温かく無邪気な少女はいない。凛とした気高さと人を寄せ付けない冷酷すら感じさせる雰囲気を放つ少女がいた。
これが彼女の本質であり、本当の姿である。
ソルジャー1st・サラサ。
神羅カンパニーに現在二人しかいない1stソルジャーの一人だ。
今の所、彼女の本質を知っているのはラザードのみだ。薄々感づいている人間もちらほらといるみたいだが確信には至ってないらしい。知っておくべきなのか知らないほうが幸せなのか、ラザードには分からないけれど彼女が教えなくていいというものだから口外していない。
サラサが二つの性格を器用に使いこなすのには理由があった。
ソルジャー1stをやっているだけに、同じソルジャーであっても2ndや3rdの中には嫉妬や羨望、『女の癖に』という男女差別、ほか諸々により、あることないこと吹聴し誹謗中傷する輩もいる。曰く上司と寝て1stの地位を獲得したのだ、などと愚言にも等しい聞く価値もない戯言だが。
彼女が『天真爛漫で愛らしく友好的で誰からも好かれるような幼子』の仮面を被っているのは、それらを避けるためだ。少なくとも被ることで、噂の信憑性を否定し、それとなく愛護と庇護欲を煽り、ある程度被害は防げているらしい。そして実際彼女の戦い振りを見れば、彼女は実力で1stの地位を奪いとったのだと納得する。
またその人畜無害な仮面を以て敵を油断させ虎視眈々と隙を狙う。噂を信じ仮面だと気付かずに侮る者はいとも簡単に食われてしまうのだ。
目の前にいる羊の皮を被った狼に。
どっかりと横のデスクに腰かけ足を組んだサラサは唇を綺麗に歪ませた。

「君のその笑みを、君を罵る愚か者達に見せてあげたいね」
「見た所で信じるわけないだろう? あいつらの知能は鳥並みだからな。例え見たものであっても信じるはずがない。それにそんなこと言ったってお前は私にそういう愚か者共を近寄らせないだろう? 今日は別のようだったが」
「確かにね。それと今日の人選は仕方なかったんだよ。適任がいなくてね。気を悪くしないでくれないか」
「相変わらずの人不足、か。変わらないな」
「君の方も変わらない。ここ1年間、演技の必要はなかっただろうに更に磨きが掛かっているようだ」
「ほぅ?」
「まるで二重人格みたいだね」
「……ははっ! 最高の誉め言葉じゃないか!」

苦々しく、悲しそうに。されど美しく嬉しそうに。
そう言って、サラサは器用に全く別々の感情を浮かべてシニカルに笑ったのだった。





end
なにが書きたかったのか不明(´・ω・`)取りあえずセフィロス達と出会う前は二重人格っぽく性格演じながら過ごしてたよってはなし。でも3人と会うまではほとんど本社にはいない設定←
 

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