連載2

□25時の夜想曲
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真夜中、ふと目を覚ましたサラサはおもむろに手を伸ばした。充電中の携帯を探り当てボタンを押すとサイドパネルに時刻が表示される。丁度深夜の一時を回ったところだった。
ベッドサイドにあるスタンドに明かりをつけると真っ暗だった寝室がオレンジ色の光に照らされる。

「ん……」

肌寒さに身体を丸め反対側に手をのばすとひんやりとした冷たい感触だけが返ってきた。一人で使うには大きすぎるベッドには一人分の温もりしかない。どうやらベッドの本来の主はまだ帰ってきてはいないようだった。

「……日付が変わる前に帰ってこれると言ったくせにな」

唇を尖らせてサラサは小さく愚痴を溢した。今朝交わした言葉は電話越しではあったが自信に満ちていたからこそ、サラサは男の言う通り彼の部屋で待っていたのだ。
今夜は少し肌寒かったから相手の体温でぬくぬくと温まろうという算段をたてていたサラサは拍子抜けし、喉の渇きを満たそうとパジャマの上にガウンを羽織って寝室を出た。
リビングに向かうとドアの隙間から僅かに明かりが溢れていた。

「……帰ってたのか」

ソルジャー専用の寮は他人が出入り出来ないようエントランスや各部屋ごとに認証パスワードが必要となっている。知らない人間は一階のエントランスにすら入れないし、もし入れたとしても部屋に入るには扉を壊さなければならない。そうなればすぐに気付く故に、サラサの中に泥棒という発想はなかった。
そもそも神羅の英雄と呼ばれ恐れと畏怖、憧れの対象となっている男の部屋に泥棒に入る奴は余程の間抜けか命知らずのどちらかでしかないのである。
そんな命知らずはこの部屋の主しかサラサは知らない。なにせ彼は神羅の女帝と呼ばれ恐れられているサラサの部屋に侵入し、人が目覚める前から人の部屋のリビングで優雅にティータイムを過ごしていたのだから。しかもご丁寧に人の茶器と茶葉を使って、である。
半年前以上のことになるが自室のリビングの壁が破壊された時の翌日のことは今でも鮮明に思い出せる。その出来事を思い出して遠い目をしたサラサは気持ちを切り替えてドアを僅かに開けた。
間接照明の橙色の柔らかな明かりにぱちぱちと目を慣らしてからそっと開け放つ。

「セフィ……?」

革張りのソファーに背中を預けて座り愛刀の政宗を抱えたまま眠るセフィロスの姿があった。ソファーの前のローテーブルの上にはどんぶりと箸が並べられ、どんぶりの中にはお湯を注いで数分で出来るお手軽インスタントラーメンと思わしき代物が規格外の姿で残っていた。手をつけられた形跡がないことから出来上がりを待っている間に眠ってしまったのだろう。
こんなにも近くにサラサの姿があるにも関わらずセフィロスは目を覚ますことなく眠り続けている。あどけない寝顔を見せる男にサラサは小さく笑みを溢した。

「わぉ、睫毛ながーい……」

まじまじと彼の寝顔を見るのはこれが初めてだ。
正式に付き合い始めてからというもの、夜に共にベッドに入ると朝方まで男に付き合わされて身体を酷使してしまいどうしてもセフィロスのほうが起きるのが早いのである。しかも翌日サラサが休みだと判ると、セフィロスは抱き潰すまで飽きもせずサラサを抱いて一睡もせずに任務に行ってしまうからまともに寝顔を見る機会もなかったのである。
無防備なセフィロスの寝顔に手を這わせ思う存分観察しながら頬を撫でた。

「本当に綺麗な男だ」

セフィロスはそんじょそこらの女より綺麗だとサラサは思う。思うだけで口にはしない。嬉しくないと機嫌を急降下させる男の姿が容易く想像出来るからだ。

「肌も髪もざらついてる。寝る前に風呂に……いや、風邪をひくか」

この男は自分の髪を自然乾燥に頼るからきっと高確率で風邪を引くに決まっている。

「しかし寒くないのか?」

ソルジャーのコートを着たまま熟睡中のセフィロスの恰好を見てサラサはそう呟いた。彼の場合、特に胸元から素肌が覗いているからだろうか。見ているだけで逆にこちらが寒くなってくる。

「お前が温めてくれればいい」

毛布を持ってくるべきか、ベッドへ連れていくべきか。悩むサラサの心中を見抜いたかのような発言に、ぎょっとして飛び退いた。しかしそれよりも早くセフィロスに手首を捕まれて後退を阻まれてしまった。
そろそろ起きる頃合いだとは思っていたが予想外に早いお目覚めにサラサは驚きを隠せなかった。
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