連載2

□25時の夜想曲
2ページ/2ページ


「こい」
「うわ……!」

腕を引かれ、バランスを崩したサラサはセフィロスの逞しい胸の中に勢いよくダイブすることになった。結果、鼻をうつ始末である。

「痛ったぁ……! 鼻打った!」
「寒い温めろ」
「横暴……!」
「寝込みを襲ったやつに言われたくないな」
「襲ってない! ……さては最初から起きていたな」
「最初からではないさ。『睫毛が長い』あたりからだ」
「ほぼ最初からだろうが!」
「騒ぐなうるさい」
「んぅっ……!!」

眉間にシワをつくり、顔をしかめたかと思えば自身の唇を男の唇で塞がれる。閉じた唇の隙間を無理矢理こじ開けて入ってきたセフィロスの舌がサラサの口腔を蹂躙した。

「んっ……ッ……ふ、ぁ……」

歯列をなぞり舌を絡めとられきつく吸われる。噛みちぎってやろうという物騒な考えは刹那に訪れた巧みな愛撫に吹き飛んでしまう。舌が交わるたび、ぴりりとした電流が快楽と共に流れ、ぞわぞわと下腹部に熱が集中する。
それをどこかに流そうとしている間にチュッとリップ音をたてて男の唇が離れていった。
銀色の糸が互いを繋ぎセフィロスの赤い舌が唇に付着したそれをペロリと舐め艶然と微笑んだ。
その表情に見惚れてしまい結局文句のひとつも言えない。けれどせめて距離は取ろうと身を引くが一瞬にして引き寄せられ痛いほどに力強く抱きしめられサラサは息をのんだ。

「何故離れる」
「ッ……セフィ、ロス……」
「離れることは許さん」

相変わらずこの男は自分の馬鹿力加減を分かっていない。
常人であれば気を失ってしまうほどの力強い抱擁は同じソルジャーであるサラサだからこそ耐えられるのである。それでも苦しいのに変わりはなく、息もし難い。
呼吸困難に陥る一歩手前で――我慢しただけ有り難く思え!――痛い痛い死ぬ死ぬと背中を容赦なく叩いて訴えれば暫くしてホールドから解放された。

「お前は私を殺す気か!?」
「俺がお前を殺すわけないだろう」
「あれは殺人モノだ」
「それくらいで死ぬわけないだろうお前が」

鼻で笑うというオプションつきで言われカチンと来た。サラサは渾身の頭突きを繰りだそうと考え構える。
この際脳細胞が生きようが死のうが構うものか。
こいつは敵だ!
しかし。
再度の抱擁でサラサの頭突きは不発に終わった。
二度目の抱擁は拍子抜けするほどにとても優しいものだった。

「出来るなら始めからしてよ」
「言われて俺が素直にそうするとでも?」
「思いませんね―」
「なら言うな。今はお前を感じていたい。黙っていろ」
「……天然タラシめ」
「何か言ったか」
「ッ……痛い痛い!」

突如として加わった圧力に軋む関節に早々に音をあげたサラサは仕方なしにセフィロスの腕の中に大人しく収まった。
熱を分かち合うかのように密着した身体が呼吸を繰り返すたびに小さく揺れる。室内にいるというのに吐息はうっすらと白みがかっていた。

「……温いな」
「私は冷たい」

憮然としてそう言えばクツクツと笑う声が聴こえた。

「なんでこんなに冷たいんだ?」
「……さぁな」

サラサの温もりはセフィロスに奪われ、セフィロスの冷たさがサラサを侵食する。けれど不快感がないのは惚れた弱味とでもいうやつだろうか。
苦笑を浮かべれば怪訝な顔で見下ろされる。小さく笑って、拘束とも言える抱擁から両手の束縛を解いたサラサは誘うようにセフィロスの首に腕を回した。

「持ってけ私の体温」

きょとんとした彼の表情が酷く可愛らしかった。冷たくなる身体とは裏腹に心はほっこりと暖まる。
次の瞬間には捕食者たる顔をして迫る男の冷たい唇をサラサは笑みを浮かべて迎えたのだった。







25時の夜想曲
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ