連載2

□手繰り寄せて、コトバで
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携帯を専用のロッカーに預けて鍵を掛けたサラサはその足で隣の資料室へと向かった。資料室への通信機器の持ち込みは一律で禁止されているのである。例外はない。
サラサがそこへ出向く目的はただひとつ。資料室に籠って一向に出てこない男に会うためである。
認識証を機械に翳し開いた自動ドアをくぐり抜け、真っ直ぐに奥へと向かう。
大きな机の上に積み重ねられている資料の山の向こうに男はいた。
サラサが気配を消して来たとはいえ、こちらに気付きもしない。神羅の英雄と呼ばれる彼にしては珍しい失態であると内心で笑いながら一心不乱に資料を読みふける男――セフィロスを見やる。
少し窶れたのではないだろうか。久しぶりに見た彼にそんな印象を抱く。恐らくザックスが見たら、老けたのではないかと、そんな言葉を投げ掛けるに違いない。
この部屋に籠るようになってから恐らくまともに寝ていないのだろう。食事もとっていないに違いない。その証拠に彼の男の癖にきめ細やかな肌は荒れ、目の下にうっすらと隈が出来ていた。
何やってるんだこの男は、とサラサは大仰にため息をついた。分かっていても呆れの念が先に出てしまう。

「セフィロス」
「……サラサか」

ちらりと資料から顔をあげ、セフィロスはエメラルドグリーンの瞳を見せる。けれどそれも一瞬のことで視線は直ぐに資料へと落とされた。
それがなんだか気にくわない。
資料にかじりつきたい理由もわかるけれど、もう少しだけでもいいから自分を見て欲しかったというのが本音である。――そんなこと言えるわけないけれど。

「ご飯食べてる?」
「ああ」
「きちんと寝てる?」
「ああ」
「そう」

嘘ばっかりだとサラサは小さく嘆息した。
自身のことに関心がないのかそれよりも人一倍強いから大丈夫だと思っているのか。恐らく両方だろうがどうにも自身の体調を疎かにしがちなのである。なまじ集中力が有り余っているだけに一度取りかかると食事も睡眠も忘れてしまうからいただけない。そして、彼がここに籠る理由が理由だけに更に拍車をかけているに違いないのだ。

「何か見つかった?」
「いや……」
「そう」

ジェネシスとアンジール。消えてしまった(後者は接触を持ててはいるが)親友を何とか救おうと必死になっている。
二人が関わっているだろう資料を彼は片っ端から読み漁っていた。
G系ソルジャー。Gプロジェクト。劣化現象。
どれも馴染みのない言葉ばかり並べられた資料はサラサを酷く不愉快にさせる。
ジェネシスもアンジールも、ソルジャーであろうと化物であろうと、なんであれ受け入れているサラサにとって、そういった明確な答えを導き出すということは真実彼らをそういう枠組みにいれてしまうことと同義のように思える。
そうして枠組みに嵌まった途端、そこに科学者の忌々しい思想や狂気が浮かび上がり、運命を翻弄されたジェネシスたちに同情してしまいそうになる。
きっとジェネシスもアンジールも同情など望んでいないに違いないのに。
彼らが欲しているのは何よりもまず救済だ。彼らを苦しめる全てからの。
だからセフィロスは真実を知ろうと資料を漁る。闇に隠されて眠る真実の中に彼らを救う情報があればと願いながら。

「何か用か?」
「何よ。用がなきゃ恋人に会いにきちゃいけないの?」
「そういうわけではないが……」
「冗談よ。そのまま仕事してて。私は見てるだけから」

サラサは壁に凭れて紙面に目を滑らせる男を見つめた。
親友で戦友で大好きな二人が姿を消してしまってから、彼と同じ任務につくこともこうして同じ空間を共有することもあまり無くなった。
1stが二人も消えた以上戦力は分散しなければならないし、ソルジャーの中で動揺が広がっている以上トップが揺るぎない姿勢を見せなければならない。“英雄”や“女帝”なんていう有り難くもない代名詞がついている二人は特に。
セフィロスが資料室に隠るならば、自身は表に立とう。二人で探したほうがきっと早く見つかるのだろうけれど、親友の達ことを考えればどうしてもその選択をしたくなる。
けれどサラサは戦うことを選んだ。
揺るぎない姿で周囲を引っ張り、ソルジャーという部隊が内側から瓦解させない為に。
親友達が帰ってきた時に居場所が無いなんてことのないように。
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